このレビューはネタバレを含みます
劇場を出ると世界が違って見えた。鑑賞後の観客みんなすごい顔してたなぁ。
オープニング、石橋英子の音楽とともに仰望で森を進んでいく。だんだん天地がわからなくなっていき、数多の枝がまるで樹形図のように見えてくる。この映画はいったいどこへ行き着くのか。のちに都会のカットが挟まれたときに反射的に「うつくしくない」と感じて、この序盤は観客がこわくてうつくしい自然に慣れるために必要な長さだったんだな、と思い至った。
全体的には濱口監督版『もののけ姫』といった気配。そこに「悪は存在しない」「水は低い方へ流れる」「すべてはバランス」というフレーズがこだまする。
ラストは花や高橋に「上流でやったこと」が回ってきたようにも見えるし、巧の行動が半矢の鹿や天災と同じであるかのようにも見えるし、巧が自然の摂理と人間の感情との間で葛藤しているようにも見えるし、はたまた巧親子が鹿の化身や境界を超越する者であるようにも見える。それでいてどれもしっくりこない。
わたしには少しでもわかった気になっている人間や「対岸の火事」的な態度を打ちのめすような、自然への畏怖のようなものがつよく残った。「どこか他の場所へ」追いやられるのは誰なのかー深く考えさせられる映画だった。