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悪は存在しないのnのネタバレレビュー・内容・結末

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

目の当たりにした瞬間はそのラストに驚きすぎたけど、後から振り返ってみればあのラストに至るまでの過程は物凄く緻密に描かれていたような気がする。

巧が学童のお迎えの時間を何度も忘れてしまっているらしい冒頭の描写の時点で 不穏な空気はあった。

劇中の写真から察するに、母親がなんらかの事情によりここにいないのはそんなに昔からのことでもなさそうな様子(写真の中の花が今とそんなに変わらない)

それを踏まえると、巧がいまだ妻の喪失から立ち直れていないと見ることもできる。

ただその点を言葉でまどろっこしく説明しないのが 濱口映画の上品なところだと思う。

花から鳥の羽をもらった先生が「嬉しいけど、一人でどこかに行くのは危ないよ」と言ったシーンも、本来ならそれは父親が言うべき台詞のはず。

彼の子育ても 人目線で見れば放任主義がすぎるといえるし、自然界の動物と同じように見るなら別に不思議ではないのかもしれない



印象的な車中の会話シーン

高橋と黛2人のときに「心が擦り切れたとき、普通の時なら思いもよらなかったような方向に心が動く」的なことを言っている場面があって、この台詞が主人公がラストにとった行動と重なっているという解釈。

・母親の不在
・娘の迎えを何度も忘れる

あたりが彼の心の限界からきているものと考えたらそういう解釈もできそう。

そこからかくかくしかじか(鹿とかけているわけではない🦌)あって、巧と高橋と黛3人の車中シーン

人間側の都合で鹿の話をしていた高橋、黛に「鹿はどこに行くのだろう」と答えた巧。

高橋は「まあ、どこかに行くんでしょう」と答えるのだけど(それがまさしく上から下に流れるってことなんだろう)

そのあと巧は何も答えず、運転しながら車内で煙草を吸い始める。
さっきあげた高橋と黛2人の会話の中で「この空気で煙草吸うのはマズいか」ってシーンがある。
それ踏まえてのこのタイミングでの煙草よ。

しかも煙草を吸い出したと同時に主人公の顔に影がかかる。これがもう彼の心情とリンクしていて、これですよもう濱口はすぐそういうことをだなぁ…(溜息)

高橋たちは鹿が人間に危害を加えるかどうかで話していて、巧は人間が来ることによって鹿(自然)にどういう影響があるのかを心配しているという対比が明確だった。

で、結局巧の最後の行動はバランスをとる役割を果たすためだったのか(自然)心が擦り切れてしまって普通じゃない行動をしたのか(人間)これなんかもう、どっちもあるんじゃないかなって思うんです。

自然に囲まれて生きていても巧はやはり人間で、人間と自然どちらかの側につくような、そんなわかりやすい境目があるわけではない、ってのを一番描きたかったんじゃないのかな…というのが私の結論。

しらんけど
(といえば許されると思っている)

いろいろ書いたけど、わかりやすい正解や面白さを提示するのが映画なのか?ちげえだろうよ!!!!ってのをおもくそ突きつけられた気分でした。

noteで結末についてより詳しく書いた
https://note.com/kodoroom/n/nde44ccded801
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