ふジさわ

悪は存在しないのふジさわのネタバレレビュー・内容・結末

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

見入ってしまった。まさしく視聴覚効果が存分に発揮された映画だった。

 疫病がもたらす経済難。金でどうにかしようとする政府。補助金欲しさの芸能事務所。金稼ぎにつけこむコンサル。土地の事情を考慮しない建設会社。恣意そのものである人間社会が自然界を侵食する。
 主人公は初めの台詞から人間らしからぬ棒読みで、山の事を知り尽くした人物であった。
 グランピング開発の担当者達は会社と地元住民の板挟みに遭うも、徐々に自然に親しみを覚えるようになる。その過程が逆にジレンマの極地に起こる悲劇を予感させるようで儚い。
 ラストで手負の鹿に襲われそうになる1人娘を放ってまで他人が助けに入る事を阻止する主人公。これは自然の摂理を受け入れ、そこから逸脱した人間が介入する事を許さない選択である。恐らく度々写真のみで描写される奥さんも自然に呑まれて亡くなったのだろう。にしてもそれだとバランス所の話じゃないんですが、どう考察したらいいんだろうね〜

混沌の中に生まれ意味の中に育ち神話を語る人間が生命の円環を貪り尽くし、環境問題が嘆かれる現代で、この映画を商業の中心でない映画館だけに放映する。人間が想起しただけの概念たる善も悪も存在しないと嘲りながら、それでも文化としての映画のあるべき形を模索している。
ふジさわ

ふジさわ