湯っ子

悪は存在しないの湯っ子のネタバレレビュー・内容・結末

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

次々タイムラインに上がってくるレビューを読まずにガマン。予備知識はジャケのみの状態で観られて良かった!


自然対人間の二項対立ではない。森のそばで暮らし森を守ろうとする人々もまた、森を壊しながら利用しながら生きている。
森の中で暮らす鹿たちも、その恵みを糧として生きている点では人間と同じだ。人間も自然の一部と考える向きもある。
しかし、鹿たちはハンターに狙われることもあり、この場合、人間は鹿にとって敵である。単純な線引きはできない。

森の番人のように見える巧。彼の「便利屋」という仕事も、巧の仲間が営むうどん屋にも、土着の匂いはない。そもそもあのへんで有名なのって蕎麦じゃないの?蕎麦屋は既にたくさんあるからうどん屋にして、創作居酒屋みたいなインテリアで水にこだわって。東京から脱サラして一念発起、みたいなイメージの店だ。
ここにも、水挽町の人々と、グランピング施設を計画する会社のふたりとの間に単純な二項対立はないことが示されている。

グランピング説明会も面白かったけど、やっぱり東京からふたりが水挽町へ向かう車内の会話が抜群に面白い。なんてことないよくある会話なのに引き込まれる。絶妙な距離感と緊張感。車内という密な空間での異性の仕事仲間との会話ってこんな風だ、わかりすぎてヒリヒリする。

ラストの出来事には意表をつかれた。自然の中では予測のつかないことが起きる。人間も予測のつかない行動をする。

「悪は存在しない」というタイトルと、「川は上から下に流れる」という作中の言葉がぐるぐる頭を回っている。
誰も悪くない、でも、頭で考えたことや想像したことは喉を通り、肚に溜まり肚に積もる。それが限界を超えた時、人間は矩を超えてしまうこともあるのだと思う。
ギャスパー・ノエの「アレックス」にあった言葉も思い出す。「悪などない。行為があるだけだ」。
湯っ子

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