バス釣り太郎

悪は存在しないのバス釣り太郎のレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.8
これから商業映画でいくらでも名をあげることはできるだろうに、常に実験的精神と柔軟性を持ちインディーズを礼賛してくれることにまずは感謝。この題材を選んでこんなに面白い映画が撮れるのは世界にこの人だけ

導入部はタルコフスキーかと見紛う退屈で美しい自然描写と運動の記録(中盤、高橋が薪割りを3回くらい失敗してからようやく成功するの、『ノスタルジア』ラストの蝋燭じゃんと見つめた)。まさかこの感じで続くのか、と思いきや説明会、車内のシーンを見ていつもの濱口会話劇に安堵、 『ハッピーアワー』鵜飼のワークショップを見ている時と同じ、眼前で組み立てられていく作劇をただ見つめる楽しい時間。館内が数回どっと湧いていてとても良かった。散々笑わせてくれる間も映画は絶えず緊迫していて、心地悪い訴求力も同時に確かに存在する。妻の不在、度々聞こえる銃声、血の滴る木。バランスはとっくに崩れている。そのことは「あっ」と娘の迎えを忘れる巧さながらに、映画が終わった後から思い出すのだけど。