YAJ

悪は存在しないのYAJのネタバレレビュー・内容・結末

悪は存在しない(2023年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

【瓢箪から駒】

 なんだったのだろう?!という鮮烈な印象を残して終わる問題作。ある意味、すごい作為に満ち満ちた作品じゃなかろうか。
 タイトルからしてそうだ。のっけから鑑賞者を、とある方向に導こうとしている。「~存在しない」と言い切ってはいるが、むしろ「~しない?」と反意語と捉えてもよいのかも。
 いずれにせよ、ミスリードと言わんばかりの作為を感じた。

 長野県南信、八ヶ岳周辺が舞台のお話ということで興味を持ち、長野相生座での鑑賞も敢えて狙ってのこと(笑) とはいえ、観客は思ったほど入っていなかったが、まぁ、いつものことだ。
 地方と都会、自然と人間、経済とSDG'sと言った二項対立を意識させながら物語を追うことになるが、タイトルが、そうした二元論じゃないのだよと思わせつつ・・・(以下省略)。

 会話劇が面白い。
 そのあたりはさすがの濱口組という趣き。
 キャスティングも素人然とした役者を多用して、観る側の先入観の持ち込みを排除し、常に画面に緊張感を保ちつづけている趣向には唸らされた。こんな手もあるのか、と。

 サイレント映像がスタートだったことが功を奏した、瓢箪から駒的な作品となって世に出たなと、驚きをもって鑑賞した。



(ネタバレ含む)



 グランピング建設計画を持ち込んできた側の高橋啓介(小坂竜士)の最後のセリフ、「な、なんで・・・?!」が全てを物語っていたかな。
 『LAMB』(2021)のインパクトにも似た感慨を覚えた。
 鑑賞後の反省会が盛り上がること必至の結び方だ。

 謎多き幕切れであったが、それを、多少なりとも「さもありなん」と思わせたのが、朴訥で、言葉少なく表情も乏しく、なにを考えているのか分からない主人公安村巧に、元スタッフという大美賀均を起用したこと。最大の(あるいは最低限の)成功要因かもしれない。だって、なんの先入観もない役者さんなんだもの。しかも、ちょっと不気味だし。
 こんなキメ技(←ラストシーン)を持ってるってことは、どんな出自、経歴を持つ男だ?と、逆の意味で『PERFECT DAYS』の平山を彷彿させる。

 ライブパフォーマンス用映像の製作から始まったプロジェクト。元はセリフが音に残ることは想定してない役者のキャスティングだったというから、それを形にするという試み自体が、面白いものだなと思った。
 それが奏功した、と思う。

 瓢箪から出た「駒」を作品として昇華させるのは、偶然の産物か、それとも製作スタッフ、濱口竜介の技量か。
 恐るべし。
YAJ

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