高井戸三郎

悪は存在しないの高井戸三郎のネタバレレビュー・内容・結末

悪は存在しない(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

冒頭、90度の仰角で、空と黒い枝角のように見える冬枯れた樹々を長回しで捉えるトラベリング・ショット、これは神への視線ではないか?
そして、これは濱口作品で印象的に使われる正対切り返しショットであり、切り返し先はスクリーンの前に座る我々なのではないか?「これは、君の話になる」のだから。
本作で人物間の正対切り返しは(おそらく)使われてないが、代わりに以下の4ショットがある。
1.オカワサビ-匠
2.骨になったシカ-花
3.骨になったシカ-黛
4.半矢のシカ-花

本作の物語を2つのレベルに分けるなら、以下となるだろう。
①対話してみたら悪人はいなかった。
②悪そのものは存在しない。だが/そのため、善そのものも存在しない。
①にはグランピング場開発を巡る開発者と地元住民のコミュニケーションが該当する。
②に該当するのが上記4ショットであり、その基調をなすのが、冒頭の0.神-我々である。
善も悪もないというのは、同時に、善か悪を判断する基準が生まれる次元ということでもある。本作では生死をやり取りする場としての自然を、その次元として措定しているのではないか。

だから、半矢のシカと正対した花は、命に魅入られたように脱帽し歩み寄り、高橋は花を救おうと駆け出し、巧は高橋を押さえつけてその神聖な場を乱さないようにしたのではないか。
それらの行動に善も悪もない。
そして冒頭のショットが回帰し、0.我々は神との正対に差し戻される。
高井戸三郎

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