Blake1757

悪は存在しないのBlake1757のレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.0
なるべく余計な情報を入れないように気を付けて過ごし、ようやく今日、劇場で観てきた。
僕はもともと「森の映画」や「歩く映画」が好きな質で、つまりはこの「森を歩く映画」も好みのタイプに入る。
冒頭の木々を真下から撮った長回しから、冬枯れの針葉樹林を歩く人々を丁寧に撮ったロング中心のキャメラワーク、それに寄り添う音楽(ドラムのハイハットからストリングスへと移行する音楽の流麗さ)、それとさまざまな環境音に織りなされる世界にずっと浸っていたくなるような感覚をもった。
ただしその一方で、キャメラを車の後部席(リアウインドウ側)において、遠ざかっていく道行きを捉えたショットなどは、その場所との距離感を無理やり認識させられているような奇妙な不安感覚を感じさせられもした。
物語の背景にある「グランピング開発」と、それに絡む人々をどのように収れんさせるのか、タイトルからしても善悪二元論に収めるわけがないことは自明ではあったのだが、その収め方(エンディング)については、正直に言えば、不意を突かれて驚いた。
解釈はいろいろと可能だろう。オープン・エンディングであることを前提に、一種の分かりやすい寓話(自然vs.人間といった)ととることも可能だろうし、不条理劇(無常観や理性の奥底を描いた)ととらえることもできるかもしれない。
僕自身の解釈は定まっているわけではない(定める気もない)が、ラストに聞こえる「音」の印象から僕が受け取った感覚は、どちらかと言えば、この作品のタイトルとは「逆」の印象、あるいはそれが言い過ぎならば、これを「反語的なタイトル」として読み直させられるような感覚だった。

*本レビュー投稿後、以下の記事を見つけて参考になったので付記しておく。
「避けようのない音楽——映画「悪は存在しない」について」(WWD)
「観客の度肝を抜く濱口竜介監督『悪は存在しない』。映像とせめぎあう言葉の精度と響き、その圧倒的おもしろさ」(MovieWalkerPress)
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