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悪は存在しないのnowstickのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
3.8
ある種のネタバレになってしまうが、タイトルから説教くさい映画かと思って見てみたら、割とそのまんまの意味の映画だった。

基本的には、美しい世界に急に緊張が走って、それがまた淀みながらも、美しくなるまでを描く物語で、「裏の裏をかいた結果、割と王道の映画になったのかな?」と思って、途中までは滅茶苦茶面白く観ていた。
全体を通して映像もとても美しく、「丁寧に描く美しい世界」「そこに急に刺す緊張」「そこからまた美しく」といった、三段構えのコロコロ話が変わる構成が、普通にエンタメとして面白かった。
「このまま、普通にハッピーエンドで終わってくれるのかな?」とか、勝手に期待したが、一筋縄では行かなかった。

しかし、村上春樹的なメタファーを全く理解できない自分にとって、残念ながら「最後の展開をどう面白がったら良いのか?」が分からなかった。
ああいう表現は、何かを知っていたら理解できて、一元的な面白がり方が可能な物なのか?それとも、正直、誰もよく分かっていないが、考察合戦として楽しむものなのか?どう思って見たら良いのか?が、よく分からない。
数年前に自分は村上春樹の「羊をめぐる冒険」という小説を読んだのだが、その時も似たような感じで、「文体が綺麗だなあ」とか「最後に謎が解けて終わるのかな?」とか思って読み進めていたら、謎が更に深まった状態で、終わってしまった。そういう意味では本作は自分にとって、「羊をめぐる冒険 鹿篇」といった感じだ。

個人的には、最後のが無ければ普通に滅茶苦茶良い映画だったが、おそらく監督は最後のを一番やりたかったと思うので、どうしようもないのだろう。別に、「露骨なハッピーエンドで終わるのが嫌だから、ラストで、わざと変な事をしよう!」みたいな、浅はかな考えでそうしたとも思わないから、批判することもできない。

この映画をどう見たら良いのかは、よく分からないし、その辺を誰かに教えて貰いたい気持ちではあるが、自分が理解できた部分を、理解できなかった部分で差し引いたとしても、普通に見る価値のある、良い映画だとは思う。
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