歩く肉

僕はキャプテンの歩く肉のレビュー・感想・評価

僕はキャプテン(2023年製作の映画)
4.8
涙が止まらなかった。ヨーロッパの不法移民がいま大きな問題になっている中で、イタリア人の監督が舵をとって映画をつくるということの意義について考えさせられる。不法移民という問題を必要以上にどちらかに肩入れしているわけでもなく、ありのままの問題をある種神話に昇華させていた。作ってくれたことに感謝。

確かにヨーロッパに住んでいるひとからすれば、難民でもなく自国の政情が不安定というわけでもなく、己の願望を満たすためだけに不法移民されるのは迷惑千万だ。しかしこの映画をみると、その構造が垣間見えた。
男の子たちがスマホで動画を観る場面があったが、観ている内容は映されていないものの、明らかに西洋のコンテンツと思わせる。それを楽しそうに観る主人公たち。開かれた世界にアクセスする手段を持っている環境の中で、外に憧れるというのも至極自然な流れである。日本に置き換えてみれば、ある意味、地方出身の人が上京したい感覚に近いものがあるのかも知れないと思った。その代償があまりにも大きいけれど。
自分はセネガルについてあまり知らないし、ダカールがどれほど栄えているかは正直よくわからない。しかし、野心を抱えている若者の夢を叶えるほどカルチャー的に繁栄しているようには、とても思えない。唯一知っているセネガル作家のムアメッド・エンブガール・サーもフランスで勉強し、フランス語で執筆している。

だからと言って、不法移民しようと試みる人々を頭ごなしに擁護する気も全くない。ただ、理解することは一つ前に進むことだと信じたい。解決策はあるかどうかはわからない、しかし打開案は相互理解の基盤の上で模索すべきなのではないんだろうか。

最後の男の子の表情があまりにも良すぎて忘れ難い。
歩く肉

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