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人間の境界のきのレビュー・感想・評価

人間の境界(2023年製作の映画)
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国と国の策略に翻弄される難民一家、まもなく父になろうとしている若き国境警備隊の男性、難民を救うために最善を尽くす活動家グループ、国境付近に住む一般女性ユリア。多角的に描かれた個々の視点からの問題提起が優れている。そしてまるでドキュメンタリーのような映像とスリリングな展開が現状の緊迫性を訴える。カラー・空撮で映し出される舞台となる森(ビャウォヴイエジャの森かどうかは不明)が徐々にモノクロに切り替わる。そして次にうつされるのは飛行機。みながマスクで顔を覆うことで、コロナ禍での出来事だと示唆される。ある家族はどうやらベラルーシからポーランドの国境を越え、スウェーデンにいる家族のところへ亡命しようとしているらしい。そこに加わるのがアフガンから逃げてきた女性レイラ。この二組が、おもに難民たちの視点になる。ポーランド国境を越えたあと、武装した国境警備隊員に怯えるも、優しくお菓子やたばこをくれてリラックスした雰囲気になるもつかのま、彼らは目隠しされたトラックに積まれ、ベラルーシの国境に戻されてしまう。そこで視点が切り替わり、国境警備隊の若い男性へと変わっていく。視点がどんどん変わっていき、ところどころで交差していくことで、この事態を多角的に捉えようとしているように思える。さまざまな恐怖と死、そして葛藤。ラスト近くで、ユリアが森から助けた黒人の青年3人が、隠れ家となった家の同じ年ぐらいの子どもたちとキッチンで音楽の話で盛り上がり、「この曲は?」と繋がりあったり、ラップで繋がり合う姿に希望が託されているような気がする。エピローグで2022年、ポーランドはウクライナ人難民を約200万人受け入れたと映し出されるとき、いままで見てきたものはいったい、、、という恐怖に襲われた。
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