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人間の境界のmのネタバレレビュー・内容・結末

人間の境界(2023年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

先日、現アメリカ大統領が日本や中国などの経済が低調なのは「彼らが外国人嫌い」だとする見解を示したことが報道され、人々の注目を集めた。それはともかくとして、難民問題を取り巻く国際社会の現状に無関心な日本人は珍しくない。かく言う僕自身もその一人に含まれる。なぜ、そんな僕が本作の鑑賞に至ったかというと、とあるサッカー選手への個人的興味が移民問題に繋がったという偶然によるものである。

正直、僕は現実社会に対する映画、というかフィクションの社会的機能には懐疑的な立場を採っている。これはたぶん僕が基本的にはノンポリではないからだと思っているが、少なくとも移民問題については無関心だったことが鑑賞動機になり得たのかもしれない(これは一般論ではないということは強調しておきたい)。

本作の英題はGreen Border。
これは、ポーランドとベラルーシ間の国境地帯とそこに広がる森林を指している。本作は、緑の森林地帯を俯瞰カラーで見せる映像から始まる。このショットは、本作と同じくヴェネツィア国際映画祭で高い評価を受けた『悪は存在しない』のファーストショットを想い起こさせる。ネタバレを避けるため詳細は省くが、荘厳なスコアと森林をーーその向きは真逆ーー映し出したビジュアルの一致は、優れた二つの作品が思いがけず共鳴し合ってるかに見える。場所性、トポス。

冒頭のカラーがすぐにモノクロに切り替わると、その後全編にわたって白黒の映像が深刻さを伴って視覚に迫ってくる。さらに、手持ちカメラによる撮影が主体のため、ドキュメンタリーのようなリアリティが感じられる。劇映画でありながらも、過酷な惨状の数々に目を覆いたくもなるが、難民一家、国境警備隊の青年、活動家たちなど多角的な視点によって描かれ、個々に見られる人間的葛藤や良心がドラマを生み出しており、例えば終盤のラップ、あれはまさにフィクションの強さだと思った。
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