あまりに恐ろしい現実を前に、ずっと悪夢を観続けているかのような気分になった。
生命の危険を感じてEUに渡ろうとするベラルーシ人たち。
しかし、入口のポーランドで彼らは強烈な足止めを喰らう。
国境を渡ってすぐ、警備隊によって強制的に戻らされてしまうのだ。
それだけではない。戻ったベラルーシでも兵士たちに追い立てられ、またポーランドへと送られるのだ。
結果、難民たちはポーランドとベラルーシの国境を行ったり来たりする羽目になる。
食糧も水もなく、極寒のなかで、ただ彷徨する難民たち。
EUどころか、ポーランドにもベラルーシにもいられず、彼らはどこにも居場所が見出せない。
しかも、ポーランドの国境警備隊やベラルーシの兵士たちは、彼らを人間扱いしない。
理不尽に暴力を振るい、侮辱し、命を奪うことも厭わない。
妊婦でも幼児でも関係がない。容赦なく暴力が降りかかる。
自らを正義だと信じる時、人間はこんなにも残忍になれるのだ、とただただ怖くなった。
難民たちはゴールのない過酷な旅を延々と強いられる。
活動家や国境警備隊の人たちの話を時々交えながら、映画はそんな難民一家の様子を延々と描く。
時に家族と別れ、また時には命を失っても、旅は決して終わらない。
地獄、としか言いようがない。
そして何よりも怖いのは、これが現実にあっただろうことだという点だ。
映画では少しわかりづらかったが、元々の亡命もベラルーシ政府がしかけたものなのだそうだ。
つまり、勝手に亡命させられて、無理やり戻らされ、国境を行ったり来たりさせられた、ということだ。
この理不尽さと、残酷さには、胸が潰れる思いがする。
現実にもそうだろうが、映画にもほとんど救いがない。
章立てされた、4章のユリアのところだけが救いと言えば救いだ。
でもそれは、ほんのわずかで、あまりに非力な救い、でしかない。
ほとんどの難民たちは、そんな救いに出会うこともなく、死んでいったのだ。
それでも、この救いがあることで、まだ人間を信じたいって気持ちにはさせられる。
少なくとも、二時間半も地獄が続くこの映画にとっては救いはきちんと救いだった。
目を背けたいのに、スクリーンから目が離せない。
そんな映画だった。
こういう現実が、いまもこの世界にはあるのだ、ということを自分に強く言い聞かせたくなった。