げんげん

人間の境界のげんげんのレビュー・感想・評価

人間の境界(2023年製作の映画)
4.6
非常に重く考えさせられる作品だった。観終わった後にネットニュースやYouTubeで色々調べてしまった。

2021年ごろにベラルーシ・ポーランド国境で起きた不法難民問題を題材としたフィクション。恥ずかしながらあまりこの出来事を知らなかった。ベラルーシがシリア・イラクからの難民を『人間兵器』として組織的にポーランドに送り込もうとした出来事。軍事攻撃とは別に国を混乱に陥れる『ハイブリッド戦』と呼ばれた。難民をモノとして扱う非常に卑劣な行動であった。ちなみにウクライナ侵攻後、ロシアもフィンランドに対して全く同じことをした。ロシアもベラルーシも国の関与を否定している。ただし、ベラルーシ大統領は「これまではベラルーシが西ヨーロッパへの麻薬や移民の流入を防いできたが、もう知らないよ」と宣言し、イラク・シリアへのビザ緩和やパッケージツアーを組むなどしており、実際は認めたも同然であった。

映画は当時の人々のインタビューをもとに作られたフィクション。全員役者だが難民出身の人もいるそう。映画は4つの章(難民・国境警備隊・難民支援者・精神科医)で作られ、問題の全体を描こうとしている。最初に難民家族を描くので感情移入が半端ない。152分と長いがグイグイ見せてくるのであっという間に終わる。

不法移民を見過ごすと治安の悪化や失業率の低下につながるためポーランド側も必死。国境にバリケードを張り、難民を捕まえてはベラルーシへ送り返す。ベラルーシは難民を受け入れる気はないため、そうした難民を暴行した上でまたポーランドへ送り返す。そのいたちごっこである。『自分たちはベラルーシとポーランドで蹴り合うサッカーボールのようだった』と強制送還されたシリア人は言う。

ポーランド出身の監督は母国が難民に対してこんな酷い扱いをしているのかと憤り、情報規制される中取材を繰り返しこの映画を完成させた。撮影の妨害が入ることを恐れて秘密裏に、わずか24日で撮影を行ったとのこと。エピローグはポーランドに対しての究極の皮肉で終わっている。

当時は色々、日本でもニュースになっていたが全然観てなかった。こんなハイブリッド戦が行われているとは。今の戦争とはこんな形なのかと驚かされる。知らない方も知ってる方もぜひ観て欲しい。

全体的にポーランドも悪いみたいな描かれ方をしているが、ニュースなどを見るとポーランドも必死なのである。EU加盟国の間には国境はないようなもので、一度難民が入ってしまうとEUのどこにでもいけてしまうという脆さがあるのである。また、2015年ごろからドイツが積極的に難民を受け入れてきたが、結果として失業率が低下し治安も悪化するという事態に見舞われた。そうした状況をロシアもベラルーシも見ており、EUならびにヨーロッパの弱体化を難民を利用して狙っているところに恐ろしさを感じる。

しかし…結局被害に遭うのは国ではなく弱者というのが身に染みる映画であった。

2024年41本目
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