いつもいっちゃん

人間の境界のいつもいっちゃんのレビュー・感想・評価

人間の境界(2023年製作の映画)
5.0
今年の上半期は傑作揃いな中、またもや力強い作品が出てきました。
「ソハの地下水道」の監督最新作ということで、観ないという選択肢はありませんでした。

ベラルーシからポーランドへの境界線上で展開する、移民、国境警備隊、活動家それぞれの視点で描かれる負の社会構造。
章立てで構成される視点の物語が、やがて結びついていく。
移民に対する国境警備隊の非人道的な仕打ち。
そしてその仕打ちをするに至らせるまでの教育過程。
そしてその現状を目撃し、行動を起こす活動家たち。
それぞれが皆、立場や境遇が違えど人間的にそこに存在しつつ、共存し合うことが困難な有り様を容赦無く描く。
まるで地獄絵図の様な怒号と叫びが飛び交う理不尽なやり取り。
有刺鉄線に投げ込まれる衝撃的な所業。
全編モノクロで映し出される闇の世界でありながら、圧倒的没入感で同じ場所に彷徨う感覚になるリアリティ。
容赦の無さと救いの描き分けがドラマをより重厚にしている。
モノクロに映る、つい最近の遠い場所での現実が力強く訴えかけてくる社会派ドラマの新たな傑作。
エピローグとラストの字幕が苦い後味を残す。
間違いなく観るべき作品。
152分の長尺でありながら、長くは感じなかった。