脳内金魚

人間の境界の脳内金魚のネタバレレビュー・内容・結末

人間の境界(2023年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

恥ずかしながら、全くのフィクションと思っていた。映画自体はフィクションだが、内容は現実にベラルーシ・ポーランド間であった出来事だそうだ。この二国間に関し、前提知識がなくても理解は出来るような構成・脚本になってはいるが、事前に調べるかパンフレットを読んでおくとより解像度が上がると思う。

見終わってパンフレットを読むまでは、ベラルーシ・ポーランド間のマッチポンプかと思った。ある意味、お互いが「厄介な難民」を作り上げて、国内外の問題から自国他国民の目を逸らさせると言う点ではマッチポンプなのかもしれない。
立地関係はもとより、中東や欧州の移民・難民問題を知らない身としては、パンフレットが知識を補完するのに非常に役立った。特に、同じ難民でもウクライナと、今回の中東の人々では厳然とした差別があったというの話が考えさせられた。でも確かに、ウクライナが侵攻された当初、「ウクライナの人々は外見が欧米人と似ているから同情的だ」との話をどこかで聞いた。

劇中、ポーランド人のユリアが支援団体に加わる際、仲間がいくつか注意事項を述べる。そのなかで「支援者は法を破らないこと。なぜなら、こちら(支援者)が法を犯せば、体制に自分達を潰す口実を与えるから」というのがあり、とても印象的だった。同じく実話系の映画として『コール・ジェーン』を見た。そのときわたしは、主人公の女性が無資格で医療行為を行うことに激しい違和感を覚えた。幸いにも死者はひとりも出なかったそうだが、それは結果論である。何か体制に不備や不平等があるとき、声をあげる人間が違法なことをすれば、わたしは依って立つところを失うと思うのだ。片や法律(それが悪法だとしても)を順守し、片や違法行為をする。少なくとも、法治国家において、後者の方が断罪される存在だ。それにより、助けが必要な人に不利益があれば?誰が責任を取るのか?法を外れる、というのはそういうサーフティーネットから漏れる人が出る危険も孕んでいると言える。そしてそれを理由に、「ほら、やっぱり○○は危険だから規制しなければいけない」とならないだろうか?その思いを的確に言い当てたのが、前述の台詞だ。なにより、助けが必要な人を助ける前に、支援者が倒れていては本末転倒だ。それにそんなリスクを犯していたら、支援者を増やすことも出来ない。寄付にせよボランティア活動にせよ、それこそ推し活でも一番大切なのは「継続すること」だとわたしは思うのだ。だからこそ、ユリアが禁止区域に入ったことは、厳しく言えば、未来の助けが必要な人を見殺しにする行為とも言えるのかもしれない。同時に、「今目の前にいる人を見捨てるのか」という、ある種トロッコ問題のようなものなのかもしれない。
医療や福祉にも言えるが、この手のことは一見ドライで冷酷でも、一歩引いて物事を俯瞰して見ることが必要なのだと思った。

ここ最近は、米国資本ではないこういったドキュメントや映画が入ってくるようになり、色々考えさせると同時に、自分は本当になにも知らないのだなぁと、自分の浅薄さに恥じ入るばかりだ。それにしても、この春は本当にこういった社会問題を扱った良作が多い。
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