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人間の境界のyskdのレビュー・感想・評価

人間の境界(2023年製作の映画)
3.5
[集合体と個人の境界]

きつい描写は多々あるが、面白く?観られた。
映像は、ただの白黒というよりは、カラーから色を漂白したような映像という印象がある。そのせいか、(日本が春だから?)画面内の気温の低さがあまり感じられなかったから、それが効いているかは微妙。
だから異様に冷えた足やたまに白い吐息が出てくるのか?

最初は登場人物が次々と出てくるから少し混乱してしまった。
基本的には、ベラルーシとEU圏のポーランドとの国境における「ムスリム系の家族」、「国境警備隊の男」「ポーランド国内の人権家となる精神医師」の視点が交差するが、次第に精神科医が主な視点となっていく。つまりはポーランド(=EU)における個人の葛藤を描きたいということなのかもしれない。

映画内で流れるラジオやテレビのニュースで流れる、ポーランド・ベラルーシの国境付近で起こる移民から国境警備隊や警察への暴力は、事実なのかもしれないが、それまでの
移民への暴力をみていると、それがあっても仕方ないように思えてしまう。
おそらくそれはISISによるテロなどが原因なのだろうと想像されるが、移民である彼らもそれから逃れようとしている。
報道というのは、ある視点からのバイアスがあり、またそれを助長するのだなと考えさせられる。
これはいまのイスラエル・パレスチナ間の戦争(実際にはイスラエルの虐殺)に対しての日本国内の報道についても言えることでもある。
それまで散々ベラルーシからのポーランド入国が難しいか(ひどいか)をみている観客にとって、ラストのウクライナからの移民はすんなり受け入れているところを見ると、政治的な意図(外国と国内への)を感じられずにいられない。

救いは、「国」としての方針とは別に「個人」として移民たちを助けたい人は、活動家以外にも警察や国境警備隊の中にもいることだ。
当たり前のことだが、国や団体は人のの総体であるが、そこに所属するすべての人が同じ思想というわけではない。個人には異なるところがあって当然だ。

この映画における1番のクライマックスは、黒人青年3人が避難先の家の姉弟とラップ、ヒップホップを歌うシーンだと思う。
それはむしろ国境や人種を超えたコミュニケーションや希望としてみえ、泣いてしまった。
そういう連帯が平和につながってほしいと本当に思う。
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