木蘭

人間の境界の木蘭のレビュー・感想・評価

人間の境界(2023年製作の映画)
4.7
 ポーランド映画界の古強者監督が、ベラルーシのルカシェンコの仕掛けた難民を使ったテロ攻撃を描いた劇映画。

 冒頭のトルコ航空機内のシーンからして、撮り方が上手いなぁ・・・と感じさせる手練で、登場人物の多い二時間半の長尺を、ダレる事無く終わりまで見せる。
 ほぼ全編がモノクロだが、撮影時の森の緑色の変化を映したくなかったのが理由らしいが、結果としてカラーに比べて情報量が減る分、エキストラの少なさなどを上手く誤魔化せていて効果的。

 あの当時の報道で、ベラルーシ政府が難民や移民を意図的にポーランド国境に流し込んで国家ぐるみの嫌がらせを行っていたのは知っていたし、ポーランドが軍隊も導入して国境を封鎖して難民をフェンス越しに押し返していた(それ自体も大問題なのだが)のは目にしていたが、国境を越えてきた難民申請者を条約に従って保護する事もせず、問答無用で拉致して国境外に放逐していたことは知らなかった。

 報道ではない劇映画なので創作やアレンジはあるにしても、詳細なリサーチの上で制作されている様だし、日本の入管がしている事を思えば、こういう事はあるんだろうなと想像に難くない。
 ましてや全体主義社会が長かったポーランドの治安組織であるならば、より堅固にこういう部分は残っているだろうと思う。
 それと同時に、圧政や不当行為に対して個人が或いは組織立って抗ってきたポーランド人の長い歴史がある事も感じさせる。

 難民の少年たちが身なりを整えると金持ちの子弟たちと級友の様に戯れるシーンを映して見せたかと思えば、反対に制服を脱ぎ去って最後は裸の一人の人間に戻るシーンを映す。
 平等性と個の人間性を問いかけるシーンは感動的だった。

 強大な矛盾の中から生まれる難民を、矛盾だらけの社会がどの様に受け入れるかなんて明確な答えは無いけれど、立場が違えど立脚する基礎は持っているはずだよね?という問いかけを、バランスが取れ抑制の効いた映像で描き出す。
 事件当時や制作時の政権や右派勢力からの圧力があったにもかかわらず、これだけの物を作るのだから、この老監督も、ポーランド映画界も、戦って勝ち得てきた歴史があるんだな・・・と感じ入った。
木蘭

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