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ルボのAsinoのレビュー・感想・評価

ルボ(2023年製作の映画)
4.3
イタリア映画祭で「ルボ」を見ました(5月5日)

主人公のルボはイェニシェ(スイスドイツなどで移動生活を送る人々。ロマとは別の民族で別の言語を話す)の家族と馬車に乗って移動しながら、大道芸人として生計を立てていた。
しかし第二次世界大戦開戦間近の時代、国境警備のために徴兵され、その間に子供たちは「路上生活から保護する」という名目で「合法的に」連れ去られ、抵抗しようとした妊娠中だった妻は死んでしまう。
必ず子供たちを取り戻すと決心したルボは脱走を計画するけれど、運命的な巡り合わせにより、その後の彼の人生はそれまでと全く違うものになる。

大筋的には、時代に翻弄された男の数奇な運命を描く大河ドラマなのだけど(劇中3時間の間に25年くらいの月日が流れる)、実際にはこれは1920から70年代に掛けてスイスで、実際に行われていたイェニシェの子供たちに対する同化政策のようなものについて告発する内容。
視点が違うしスイスの場合は政府ではなく(でも公認はしていた)民間団体によるものだったとはいえ、すごく「サーミの血」を思い出させる内容だった。

「より良い生活を送れるようにするため」という大義名分のもと、誘拐に近いかたちで親元から引き離し、行く先は秘密のままにされるので親は探し出すことが出来ない。
施設でそれまでの文化を否定され、名前も変えられ、里親と言いながら労働力としか見ていない家庭に引き取られ劣悪な環境におかれ、多くが早世したという事実について、スイス政府が正式に謝罪したのは、告白と批判を受けた70年代になってからだったらしい。

ドイツではイェニシェやロマの人々も「民族浄化」の対象になったわけだけれど、優生思想や移動しながら暮らす人々に対する偏見はスイスでも強かったのだと思う。
「恵まれない子供たちのために」という言葉の影で行われていたことのおぞましさと、それを利用した人々の欺瞞が様々な形で描かれるのだけれど、自分の3人の子供たちを探し続けながらこの活動の実態について情報を集め続けたルボの数十年はまさしく波瀾万丈で、映画としての「面白さ」もすごくあって、そのバランスをもはや「理不尽な運命と数十年の収監に耐える」男の役をやりすぎじゃないかと思うくらいの(いやほんと)フランツ・ロゴフスキががっちりまとめあげている。
そんな映画でした。

ルボは人生の全てを子供たちを探すことに掛け、そのために別人として生きることを余儀なくされる訳なんだが、時おり見せる「大道芸人」としてのきらめきが素晴らしくて。フランツロゴフスキはドイツ語だけじゃなくイェニシェ語やイタリア語(スイスのイタリア語圏が主な舞台なのでメイン)も、アコーディオンの演奏なども見せる熱演でした。

前半でイェニシェの女性がカード占いで告げる「予言」めいたルボの後半生が、イェニシェの子供たちに対して行われていたことに対する皮肉になっていてそれはちょっと面白かったな。フランツロゴフスキ、女性たちが放っておかない男の役似合いすぎ。

#lubo
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