たく

DOGMAN ドッグマンのたくのレビュー・感想・評価

DOGMAN ドッグマン(2023年製作の映画)
3.7
父親の虐待で身体障害者となったことにより愛を諦めた男が、犬との共生に身を投じながら死に場所を探す感じの話。リュック・ベッソンらしいケレン味に満ちた演出を堪能したけど、ダグラスが人の愛を諦めるのがちょっと安直なのと、いくら何でも犬が頭良過ぎて笑ってしまった。ケイレブ・ランドリー・ジョーンズのドラァグクイーンっぷりが最初気持ち悪いと思ってたら、観ているうちにサマになってくるのがさすが。彼をキリストに準える演出があったのと、身体障害とビジュアルに「ジョーカー」っぽさも感じた(同作は精神障害)。日本公開時のキャッチフレーズ「企画外のダークヒーロー爆誕」は悪質なミスリード。

ドラァグクイーンの格好をした血だらけのダグラスが職質で捕まる冒頭からただならぬ雰囲気が漂い、ここから留置所で医師の尋問を受けるダグラスが自身の壮絶な生い立ちを語っていく展開。少年期の彼が父親から徹底的な虐待を受けていく役者達の演技がステレオタイプでちょっと白ける。ダグラスが父親にライフルで撃たれるシーンで、彼が十字架の形になって倒れるのと、手の指を失う(=聖痕)のがキリストに準えてるのかなと思った。

ダグラスが施設で演劇に目覚めさせてくれたサルマに現実を忘れさせてくれる救い主のような恋心を抱き、演劇界で成功した彼女に後年会いに行って、勝手に失恋するのが愛を諦めることになるのが安直で共感できず。ここから人との愛を絶ったダグラスが、人への絶対的な忠誠心を持つ犬との共生生活を選択するのが悲しい。場末のバーでようやく職を得た彼が、エディット・ピアフやマレーネ・ディードリッヒを本人そっくりに歌って観衆を沸かすシーンで、いかにも口パクなのは白けてしまった。

ダグラスの回想を聞き続ける医師が、最後に「ジョーカー」みたくなるのかとハラハラした。彼女はダグラスと同じ境遇を持ってて、彼が現世にケリをつけるトリガーになり、人を信じる心を取り戻させる本当の救い主だったのかも。ラストでダグラスが立ち上がるのはほとんど「ザ・ホエール」で、その後に分かりやすく磔刑のキリストになってた。

本作は、人の愛を得られなかった男が犬の忠誠心を愛と思い込む独りよがりな話だと思った。賢い犬が男性に忠誠心を見せる図式は、最近だと「瞳を閉じて」「落下の解剖学」が立て続けにあり、古典の名作ではヴィットリオ・デ・シーカの「ウンベルトD」があった。「ワンハリ」はまさに本作と同じく犬の忠誠心が悪趣味に扱われてたね。
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