オノタカノフ

DOGMAN ドッグマンのオノタカノフのレビュー・感想・評価

DOGMAN ドッグマン(2023年製作の映画)
4.0
主人公の生い立ちがむごすぎて、まあよくもあんな設定思いつくもんだわ。鬼畜な親父と、親父の腰巾着で信心深くて罰当たりな頭空っぽの兄貴と、何の役にも立たない優しさだけが取り柄で結局子供を見捨てて逃げる母親。傷だらけで、別に美しくも何ともない女装の主人公の口からこれらの事情が語られるというヘヴィな滑り出しだったが、終わってみると、爽快感とまでは行かないが、不快な印象は残っていないから不思議なものだ。

「REDRUM」みたいな「DOG MAN」とか、出獄後の兄貴が歩く街並みにジョン・リー・フッカー(だよね?)の歌声が流れて「ブルース・ブラザーズ」みたいだなとか。見当違いかもしれないが、面白かった。

無職のはずなのに、犬のを含めた食費やら何やらはどうしてるんだろ、あの建物には無断で住み着いているにしても、カメラを何台も設置したりする金は一体どこから? と疑問が生じた頃合いを見計らったかのように(笑)、職探しの場面。そして唐突に始まるユーリズミックス。あれれ? と思っていると実はそこはショーパブで。あれよあれよという間に、主人公舞台に立ちエディット・ピアフ。母親のシャンソン好きと、孤児院での初恋相手とのシェークスピア劇の舞台体験とが、単に悲惨な人生の中での数少ない心温まるエピソードというだけにはとどまらず、ここに繋がる伏線だったのは、快い衝撃でした。

地回りの親分を懲らしめるという裏稼業が隙だらけで依頼人バレバレで大丈夫かよ? と思ったが、大丈夫じゃなかった(笑)。この手の仕事は初めてじゃなさそうな感じを醸し出していたのに、この体たらく。ここはちょっと納得できなかった。ま、いいけど。

十字架の影と重なるラストシーン。最初の方の兄貴の「神の御名のもとに」の垂れ幕とともに、宗教性を絡めようという意図はわかる、というより意図があることしかわからず。キリスト教徒には何か感ずるものがあるのかもしれないが、私には何も。

おっと、真っ先に書くべきことを忘れそうになった。犬が素晴らしい。どう訓練したらあんなにたくさんの犬があそこまで演技できるようになるんだろう。すごい。あと、主人公の演技も。
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