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DOGMAN ドッグマンのぴーのレビュー・感想・評価

DOGMAN ドッグマン(2023年製作の映画)
4.0
あー、やだなー、これを観てボロボロ泣いてしまう自分が。あーあ。

サルマの話の顛末が身に覚えがあってツラすぎて。
家族(主に親)の愛に恵まれなかった人間は外部の愛、ほとんどの場合は恋愛にすがる。
またツラいのがダグはサルマに裏切られたわけでもなんでもなく、勝手に入れ揚げていただけで、ただただ自分の情けなさが襲ってきて眩暈がするあの感覚。
あそこで逆ギレ復讐に走らないところでダグの人間性というか、所謂“まとも”な普通の人間であるところが見えてしまって、物語すべてを通したときの悲しさが増す。
てかまずサルマ自身がやばくて、登場した瞬間に泣いてた。見覚えのある、あの底抜けの明るさ。絶対に良くない方向に話が進むとわかっているから、幸せな時間を見ているのが地獄のようにキツい。

明らかなジョーカー参照をドラァグのメイクでやってのける驚き。
セーフティネットとしてのゲイカルチャーが描かれているのも良くって、日本だと新宿二丁目が代表するところのゲイバーに代表されるコミュニティにも、そういう側面があるということを想像する大切さ。
だからと言って彼・彼女らを哀れむのは絶対に違うけど、もちろん嫌悪を露わにするのは問題外だし、無邪気に好奇の目を向けるのは俺は昔からずっと違和感がある。

構成はシンプルな回想形式だけど、台詞が最高に良い。
“I can walk, but only to my death.”という台詞が頭から離れないまま観ていたら、ラストで鳥肌が立った。
劇中の現在である時間軸の舞台はほとんどが拘置所の一室。その中でダグを捉えて揺らぐカメラは何を写しているか。

彼は何か先天的な障害を持っているわけではなく、倫理が欠落しているわけでもない。
人一倍他人に対して丁寧に接するし気を遣うし、自分の過ちを正直に認めることもできる。
そこにひっそりとだが確実に潜む脆さと危うさを完璧に表現してしまうケイレブランドリージョーンズは、『ニトラム』に続いて唯一無二の演技だった。
ベッソン次作でもこのタッグが決まってるらしいので、楽しみにしとこっと。
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