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ウェイン・ショーター 無重力の世界のBlueのレビュー・感想・評価

5.0
ウェインショーターの生涯と音楽性を追った3本構成のドキュメンタリー映画。
これはウェインショーターの事を全く知らない人でもとても興味深く見られるドキュメンタリーだと思います。むしろ知らない人の方が楽しめるかもしれない。
3本で合計3時間を超える大作なので、大好きな自分ですら躊躇しましたが、結局一気に見てしまいました。寝ないでコーヒー飲みすぎた笑。

ブラッドピットも出資しているプランBが制作してるのかと思ったら、ブラッドピット自身もプロデューサーとして名を連ねていて本気度がうかがえます。
丁寧に彼の生涯を追いながら、全く知らない人でもその悲哀に満ちた人生に心を打たれながら、彼の哲学とする部分やその音楽に魅了されるのではないかなと思います。

大きな発見と言えば、JAZZよりもJASSの部分に哲学と音楽の拡がりを求めたところ。
JASSというのはドラムのシンバルを叩いた時にジャーンとあるいはバーンとなる音ですが、英語ではJASSという響きになるそうです。JAZZの語源はシンバルのJASSから始まったとウェインも言っていますが、シンバルを叩いた音が言うならばビックバンだとして、そこから振動が伝わる過程を空間が拡がっていくという事を想像しながら、音楽にその過程と哲学を重ねていた節がある。

始まりと終わりはない。それが彼の精神の主柱にある。宇宙もビッグバンが始まりではない。ビッグバンが起きる過程/事象があったわけだから。
そこには仏教に傾倒した事も大きな一因でしょう。

エレクトリックマイルスにせよ、この時代のウェインにせよJAZZか、と言えばNOと答える人はいるだろうし、自分もそう思う。でもマイルスやウェインショーターがJASSの部分を、フリージャズに持ち込んだからこそ、どのジャンルの音楽よりも常に「新しい」と言えると思います。

実際にodessey of ISKAを初めて聞いた時に、音が分子結合していくかのように可視化されて、そこからなるほどこういう事か、と物理などに興味を持つようになりました。
JASSには物理と量子力学と哲学が確かに根づいているわけだから。

ウェザーリポート時代も今まで言えなかった事をこのドキュメンタリーで言っていてくれて本当に嬉しかった。これは個人的な意見なので不快に思う人がいるとは思います。ジャコが入った事でグループからバンドになって躍進したのはその人気を勝ち取るという意味では正しかったと思います。でも音楽的追求という意味ではジャコが入ってからのアルバムはどれも個人的にはそそられない。
sweetnighterこそどのアルバムよりも輝き、自分にとっても墓場にまで持っていきたいアルバムの一枚です。
作曲家の側面だけでなくジョニミッチェルとの競演などで演奏者としての卓越した人であるというのも改めて認識できるし、素晴らしかった。

エスペランザとの競演シーンは、ウェインショーターの本質を垣間見える、理解できるシーンだと思います。彼女の弾くベースは軽やかでとても無垢だし、彼女の歌声も何か優しく包み込んでくれるような癒しがある。菩薩/ぼさつ的というか、超越した何かを感じさせますが、それはまさにウェインショーターの音楽性が重なると彼の哲学を体現してるようで、とても沁み入りました。

ウェインショーターの偉大な功績を人々は理解してないとソニーロリンズが言っていましたが、正直ウェインショーターが大好きな自分や多くの彼のフォロワーですら彼の功績を語るのは難しいと思います。
このドキュメンタリーは彼の生い立ちから丁寧に辿りながらその音楽も実に魅力的に伝えてくれる。Netflixでもマイルスデイビスやニーナシモンのドキュメンタリーがあったけど、やっぱり知らない人に向けてのドキュメンタリーで底を探らずに終わっていたけど、本作はそうではありませんでした。こういうのが見たかった。

ウェインショーターの事を知らなくてもいい。1人の人生を見る気分でぜひ鑑賞していただきたいドキュメンタリーです。
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