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マリーナのakrutmのレビュー・感想・評価

マリーナ(1990年製作の映画)
3.6
トラウマを抱えた女性が精神的に異常をきたしていく様子を二人の男性との関係を通して描いた、ヴェルナー・シュレーター監督のドラマ映画。オーストリアの作家であるインゲボルク・バッハマンの遺作となった同名小説を、ミヒャエル・ハネケの『ピアニスト』の原作小説を著したエルルフリーデ・イェリネクが脚本化している。

映画のタイトルになっているマリーナという名前の男性とともに暮らしている女流作家(小説における「私」で、映画でも名前は与えられない)が、街で出会った男性イヴァンと衝動的に関係を持つ。冒頭のシーン(イザベル・ユペールの娘が主人公の幼少時代を演じている)から暗示されるように、彼女は父親との関係でトラウマを抱えていて、小説を書くことはできずタバコや酒に逃避して行動もおかしくなっていく。そんな彼女をイヴァンは避けるようになるが、マリーナは彼女に寄り添う。一方、次第に現実と虚構(過去の回想)の境界が曖昧になっていき、女性は狂ってしまう。

そんな主人公の様子が、ニュー・ジャーマン・シネマの先駆的存在であるヴェルナー・シュレーター監督ならではの過激で妄想的な映像によって印象的に描かれていく。一方で、現実と虚構が入り乱れ、彼女の回想・妄想では象徴的(シンボリック)な表現が多用されるので、鑑賞難易度は高いかもしれない。でも、そこら辺をあまりよく把握できなくても、イザベル・ユペールの狂気の演技を見るだけでも価値はある。ウィトゲンシュタインなんかが出てくるのは、さすがオーストリアである。でも、ウィーンでフランス語をしゃべっているのだけはいただけない。言語には敏感ではないのだろうか。
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