義民伝兵衛と蝉時雨

マリーナの義民伝兵衛と蝉時雨のレビュー・感想・評価

マリーナ(1990年製作の映画)
4.8
イザベル・ユペール、錯乱、
強迫観念、自己欺瞞、依存、精神分裂、多重人格、トラウマ、父親、虐待、ナチズム、

救済を待つ少女時代の自我、
アニムス、イマジナリー、
涙、鏡、炎、死、涙

家屋、美術、オペラ、スケート、伝統的な西洋の美の黄昏に包まれた耽美至極な地獄巡り、

どん底の中での幸福への憧憬が美を創造するという、
美と不幸の関係性、
「イメージを神聖化させるものは、次々に生まれる過酷で暗い思考の数々だ。思慮のない者が、異常な好奇心を探索しても、病める想像力を刺激するものは見つからない。そこにあるものは悪徳と、暗闇に潜む悪魔のまなさしだけだ。」

「愚か者の日」の流れが上流から注ぐ、これぞシュレーター監督とでもいうかのような圧倒的な退廃的精神世界。
病的で暗鬱な息を呑むような退廃美が終始画面一杯に広がる。デカダンの極地。
物語的にはホドロフスキーの「サンタサングレ」とは呼応するものが感じられる。

そしてイザベル・ユペールの演技力。シュレーターの変態的で天才的な美的感性に飲み込まれることなく、完全な調和を魅せながら圧倒的な存在感を放つ、恐るべき名演技。
普段TVには全く反応しない、一緒に鑑賞した愛犬も、耳を立てて驚くほどのユペールの狂乱振りに、最早脱帽。

創り手の魂迸る内容に加え、エンドロール頭のFür Jean Eustacheの文字に涙腺が尚緩んだ。本作はシュレーターがユスターシュに捧げた作品だったのだと。
つい最近ユスターシュを巡っていた自分としては、共時性というようなものにも出会して、最後まで鳥肌が止まらなかった。