Sari

キエフ裁判のSariのレビュー・感想・評価

キエフ裁判(2022年製作の映画)
4.0
ウクライナ出身のセルゲイ・ロヅニツァ監督の「戦争正義」と題された戦争映画2本連続上映特集。

1946年1月にキエフ(現キーウ)で開かれた国際軍事裁判の様子を克明に描いた法廷劇であるアーカイヴァル・ドキュメンタリー。

第2次世界大戦における独ソ戦の最中にウクライナの首都キエフ(現キーウ)郊外で起きた「バビ・ヤール大虐殺」を描いたドキュメンタリー『バビ・ヤール』(2021)のスピンオフ的な作品である。

被告は第二次世界大戦時の独ソ戦でユダヤ人虐殺などに関わったとされるナチス関係者15人。当時の残虐行為の数々ー身代わりを申し出る母から無理やり幼子を奪いその場で射殺し、生きたまま子どもたちの血を抜き焼き殺すという数々の残虐行為を、被害者らが切々と訴えるが、被告人たちは表情を変えることなく受け止めていく。

ロヅニツァ監督作は全て、音の演出(サウンド・デザイン)が素晴らしい。本作では、その裁判中の生活音、観衆の咳が画面外から異様なほど常に聞こえ続ける。観衆の存在と、戦時の劣悪な環境を強調した演出であると感じる。

有罪判決が下り、群がる民衆の前で被告たちは絞首刑に処せられる。市民たちの怒りをはらんだ歓喜は頂点に達し、人が人を裁くことの本質的な野蛮さが剥き出しになる。
戦争は多くの人間の理性を奪っていく。それは今も昔も変わらぬことを映像に込めたのである。

2023/08/18 伏見ミリオン座
Sari

Sari