ぶみ

ぼくは君たちを憎まないことにしたのぶみのレビュー・感想・評価

3.0
ふたりなら、きっと大丈夫。

アントワーヌ・レリスが上梓した実話をベースとした同名小説を、キリアン・リートホーフ監督、脚本、ピエール・ドゥラドンシャン主演により映像化したドイツ、フランス、ベルギー製作のドラマ。
パリ同時多発テロにより、突然妻を失った主人公の姿を描く。
主人公となるジャーナリスト・アントワーヌをドゥラドンシャン、妻エリーナをカメリア・ジョルダナが演じているほか、生後17ヶ月の息子・メルヴィルとしてゾーエ・イオリオが登場。
物語は、2015年11月13日、テロにより突如妻を失ったアントワーヌがテロリストに対し、「憎しみを与えず、今まで通りの生活を続ける」と宣言したメッセージを発表した様子と、その後が描かれるのだが、まず、パリの同時多発テロと言えば記憶に新しいところである反面、このようなメッセージを発信したジャーナリストがいたことは、恥ずかしながら、本作品で初めて知った次第。
突然、家族を失うという出来事は、日頃想像してもいないし、ましてやテロなどという理不尽な理由だとすると、果たして当事者になった時にどんな感情を抱くのか、想像もできないもの。
普通に考えれば、やり場のない怒りや憎しみが湧き上がるのは自然なことと思われるものの、それを、自分の中でどう処理するのか、はたまた報復のような行動に出たところで、何も変わらないことは頭ではわかっていても、それを冷静に抑えることができるかどうかは、やはりその立場にならないとわからないものであるが、表向きにはメッセージがバズったことから一躍ヒーロー扱いされつつも、裏ではしっかり人間らしい一面を見せるアントワーヌを、ドゥラドンシャンが見事に演じている。
何より、本作品の優勝は、息子メルヴィルを演じたイオリオであり、当時三歳とのことのようだが、その演技力たるや大人顔負けで、影の主役と言っても過言ではない。
実話ベースによるドキュメンタリー調の作風であり、終始淡々とした展開が続くため、所謂エンタメ性を加えた映画的な面白さは皆無ではあるものの、難局に対峙した時の一つの折り合いの付け方として非常に参考になった反面、スクリーンで予告編を観たことがなく、公開ラインアップにも突如追加されたことから、公開初日のレイトショーで私を含め三人しかいなかったのは些か寂しく、配給のアルバトロス・フィルムには、もう少し力を入れてもらいたかった一作。

人生は続く。
ぶみ

ぶみ