きゅうりぼーい

疫起 エピデミックのきゅうりぼーいのレビュー・感想・評価

疫起 エピデミック(2023年製作の映画)
4.0


「分からない」

不確かな状況下で増幅する不安と恐怖、そこから炙り出される人間性。

自分のため。他者のため。
芽生えるそれぞれの心に善悪を見い出したときに分断される人々の繋がり。

2003年SARS流行により緊急封鎖を余儀なくされた病院を舞台に、院内に残された人々が危機的状況の中で下していく決断とそこに生まれる人間ドラマを骨太豪華キャストで描いた本作。

利己と利他。
私たち人々を突き動かす原動力は、果たしてそれだけなのだろうか。

〝この命を使う〟 その場所を、その時を
きっと私たちはこの人生の中で探し求めているのかもしれない。
そしてその機会を得たときはじめて私たちは己が為、他者の為、その両者を繋ぎ一つの利とすることが出来るのだろう。


感染と分断。
不確かなものを前に隔てられた壁を〝使命〟によって突き破っていく者たちの勇姿、そのラストに魅せる笑顔に目頭が熱くなる。

『九月に降る風』を機にさまざまな映画やドラマで活躍してきたワン・ポーチエ。
『君の心に刻んだ名前』『返校』などで頭角を表してきている新生ツェン・ジンホワ。
世代を分つ2人の共演。朝焼けと共に視線を交わす彼らの姿、そのラストは過去のSARSとここ2~3年の新たなコロナウイルスの危機を越えた私たちにとって、また台湾映画そのものにとっての新たな時代への突入を感じさせるシーンのように思えてしまい、たまらない気持ちになった。

『悪との距離』
『茶金』(まだ観れてない)
『選挙の人』
数々の上質な台湾ドラマを打ちたててきた林君陽監督が手がけた本作は、2003年SARS流行の当時実際にあった病院封鎖事件をモチーフにそのエンタメ性と極上の人間ドラマをもって当時自分の命を犠牲に戦った者たちへ敬意を送る。
2003年から20年。過去があって今がある。
その当時の経験を忘れてはならないとする〝使命〟もそこに乗っかることで本作の厚みはより一層増していくことだろう。

いわゆるウイルス感染もので描かれることなんてもう大体一緒だよなって少したかを括った状態で見始めた自分を恥じる。
本作は〝台湾の映画〟であったこと、そして〝使命〟を描いた映画であるという解釈に至り、そこからは完全に見入ってしまっていた。

お見事でした🙌
きゅうりぼーい

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