ひのらんげ

隣人X 疑惑の彼女のひのらんげのレビュー・感想・評価

隣人X 疑惑の彼女(2023年製作の映画)
5.0
何度も何度も私は騙される。
これは色分けの話ではなくて色を混ぜる話。

アメリカで大騒ぎになっている、地球外からの「惑星難民Ⅹ」。その生物は、地球人に触れることで地球人と全く同じ容姿になるため、気づかれることがない。
確からしいのは「地球人を傷つけることがない」ということだ。「惑星難民Ⅹ」が日本にもいるとの噂で、週刊誌の記者は沸き立つ。

惑星難民Xは日本にいるのか。疑いのあの人はどうか。Xは何を考えているのか。そして、Xだったらどうだというのか。

たくさんの疑わしき登場人物。伏線が絡み合い、静かで繊細に、そして大胆に明かされる。

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稀に「終わってほしくない」と思う映画がある。なぜか長く感じるけれども心が持っていかれる印象。
スクリーンにまるで重力があるように引き付けられ私は身動きが取れない。

「こいつはXだな」とか「こいつは違うな」、とか気軽に見ていましたが、前半から中盤にかけて太刀打ちできない、、、これすごい、、、と思った。
そしてその後、案の定、私の予測や推理は見事に手のひらで転がされ、私は3次元的に大きくグルんグルんと弄ばれる。

なんだか推理する(させられる)たびに振り回されて、また餌に食いつく自分が恥ずかし心地よい。「なんじゃこの映画は!俺を弄びやがって!」と思った。笑。

「地球人を傷つけることはない」というルール。この縛りが背景にずっと意識させられて、ロボット工学3原則を思い起こさせる。この縛り好きなんですよね。昔から。人を傷つけないという縛りありのよそ者。

どいつもこいつも登場人物はだいたい不器用。ケツがむずむずして、ものすごくイライラする。私はイライラしたり予想させられて不安にさせられているのに、勝手に辱められたして静かにとても忙しかった。

起承転結の「承」が名残惜しく、「転」とのあいまいな遷移。ずっと見ていたいという感情になる。このあたりの作りが見事。

太くて距離のあるあの伏線の乱暴かつ繊細な回収。すごい大胆。それでいいんですか?ってほど大胆で潔い。好き。

ラストもにくい。
翻弄されてもうへとへとになった私を、大きな鎌でわっさと刈り取って映画は終わります。秀逸な終劇。

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星の王子様にある「本当に大事なものは目に見えないんだよ」。その通りだと思います。
でも、本当にその通りならば、本当に大事なものなんてないんだと思います。

「私がXである可能性」をどこまでリアルに感じられるか。これがこの映画の評価に直結している。「人を傷つけることはしない」という縛りの中で、私は異星で暮らして行けるか。差別されずに生活できるか。日本はどうか。

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この映画は、今年のベスト、かつオールタイムベスト10に入ります。
素晴らしい!!!!!まだ興奮してます。

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お父さん怖い。
ひのらんげ

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