三樹夫

コンクリート・ユートピアの三樹夫のレビュー・感想・評価

コンクリート・ユートピア(2021年製作の映画)
3.9
大災害が起こりあたり一面瓦礫の山となるが主人公の若夫婦が住むマンションだけが崩壊を免れた。家を失くした人たちがマンションに集まってくるが、マンションの入居者で会議をしたところ部外者はマンションの外に追い出すことに多数決で決定する。なんか堤真一に見えるイ・ビョンホンをマンションの代表として選出し、マンションは住民のもの、マンションに寄与する量に応じて配給を配る、部外者は出ていけとマンションがミニファシズム国家と化す。

ファシズムマンションに対してナチス・ドイツや北朝鮮、あるいはイスラエルやトランプ期のアメリカなどを想起するが、国家の縮図としてのマンションとなっている。『コンクリート・ユートピア』というのは皮肉になっており、完全にディストピア世界が出来上がる。排外思想が増大し、部外者を追い出しゴキブリ呼ばわり、部外者が中に入れないようにバリケードを築き、マンションに貢献した分だけ配給を配る、外は地獄でマンションだけが天国とするという、典型的なファシズム要素が急速に積み重なっていき、あれよという間にマンションはミニファシズム国家となる。代表のイ・ビョンホンがまたファシズムを煽りまくる最低最悪のファシスト代表で、マンションの入居者を家族に見立てるが、つまりこれは家父長制を敷いてくる独裁者ということだ。あくまで普通の人たちがどんどんファシズムに加担していく様をマンションに凝縮させている。しかも自分たちは外に出て食料の略奪をしているという手に負えなさだ。

ファシスト代表のカラオケという、こんな嫌なカラオケったらないよ。満たされない人生の穴埋めで、今度は自分が支配し虐げる側になるというのでファシズムにのめり込んでいく。給食のおっさんこと『漂流教室』の関谷を思わせるようなキャラだった。しかもこのファシスト代表は入居者の代表となってるけどという。
この映画を観て『漂流教室』以外にも『ミスト』や『無限のリヴァイアス』を想起するが、つまり『蠅の王』系の映画となっている。最後にもう一度『コンクリート・ユートピア』と出てきて、今までは皮肉だったのが反転する。ヘイトや分断はユートピアとは相容れない。
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