ノラネコの呑んで観るシネマ

コンクリート・ユートピアのノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

コンクリート・ユートピア(2021年製作の映画)
4.5
なるほど、これは大人版「漂流教室」だな。
未曾有の天変地異に見舞われ瓦礫と化したソウルで、ただ一棟倒壊を免れたマンション。
住民代表として選ばれたイ・ビョンホンが、やがて「利己」の行動原理で貫かれた、歪な王国を作り上げる。
イ・ビョンホンのキャラクターはプチ金正恩みたいな方向に行くのかと思いきや、彼はヤバい秘密を持っているものの、あくまでも普通の人。
どちらかと言えば利己と利他の間で揺れ動く、住民たちの潜在的な意思を後押しする様な存在だ。
物語の視点はイ・ビョンホンではなくパク・ソジュンとパク・ボヨン演じる若い夫婦に置かれていて、保身から流されてしまう夫と、最後まで人間性を保とうとする妻がコントラストを形作る。
二人とも共感キャラとして上手く造形されていて、観客はこの二人を通し常に「あなたならどうする?」と問われる構造。
全く説明の無い天変地異は、あくまでも寓話劇のための舞台装置に過ぎないので、原因は何?とか、なぜ救助が来ない?など突っ込んではいけない。
たぶん最初はもう少しブラックコメディ寄りにやりたかったのだろうが、やや生真面目で硬質な仕上がりも決して悪く無い。
イ・ビョンホンが良いのは当然だが、ちょい井上真央っぽい妻役パク・ボヨンが強い印象を残す。
エンタメ性とテーマ性が、映像テクノロジーと見事に結びついた良い映画です。
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