島晃一

オール・ダート・ロード・テイスト・オブ・ソルトの島晃一のレビュー・感想・評価

4.5
ミシシッピの黒人女性の生涯を描いたレイヴン・ジャクソン監督の長編デビュー作。

手の所作を丹念に映し、それと土地や水、共同体の生と記憶とがつながっているように感じられ斬新だった。冒頭の手を映した場面だけでもハッとさせられる。そして、魚の口から手へ、手から人と口へ、また土地から手へ…生の活力のようなものが伝っていってる印象を受けた。

ほとんどが手や顔のクロースアップで、独特な時制の編集の仕方によって、ドキュメンタリーとスピリチュアルな寓話が合わさったような不思議な感覚を覚える。

背中の映し方などは『ムーンライト』も想起したが、製作陣には同作の監督バリー・ジェンキンスが。また全体的にテレンス・マリックやアピチャッポンっぽさも少し感じたが、編集はそのアピチャッポン作品で知られるリー・チャータメーティクンがつとめた。

また、ミュージック・スーパーバイザーは『ムーンライト』と同じMaggie Phillips。ソウル名曲の選曲はもちろんだけど、ミシシッピでフィールドレコーディングされたゴスペル、Mary & Amanda Gordon「Lord, I​’​m in Your Hand」が肝だと思う。このゴスペルが流れるシーンでは、キリスト教的なものが土着的なものや自然と結びついているのが独特で、カトリックを背景にした映画の宗教性や身体性とも違うし、他の黒人映画の宗教性、スピリチュアリティとも少しズレている。

すでに独自のテクスチャー、作家性を確立している新しい才能の登場に、今後が楽しみになった。

昨年末上映された「A24の知られざる映画たち presented by U-NEXT」の一つ。
島晃一

島晃一