三隅炎雄

札つき博徒の三隅炎雄のレビュー・感想・評価

札つき博徒(1970年製作の映画)
3.9
69-70年の2年間は長い小沢茂弘低迷期だが、70年最後のこれは唯一持ち味が発揮された作品ではないか。
ふるさと戸畑に戻った渡世人鶴田浩二は、祇園祭りを民衆の手から奪い取ろうとする二つの任侠団体の一掃を決意する。故郷は自分のようなやくざがの大きな顔をする場所ではあってはならないという厳しい自己否定が、最終的に自分を含む土地のやくざ壊滅の修羅となる。
この主人公の生真面目な情動に共鳴し連帯するのが、渡世人と言うには滑稽な風体の道化二人組小池朝雄・山本麟一と、緋牡丹のお竜のパチもんセクシー侠客工藤明子というパロディ的なキャラクターたちで、この組み合わせによって、映画は批評的な面白味と活き活きとした娯楽映画の表情を得た。
厳しい自己否定と言っても鶴田は決して立派な人物ではなく、やくざが牛耳る故郷に憤りつつ、同時に居場所のない自分の荒れた心を酔って市民に八つ当たりもするといった有様で、その醜態の心情を掬ってやるのがパチもん緋牡丹博徒の工藤明子といったふうに、表現は幾重にも屈折した形で念入りに作り込んである。
脚本は笠原和夫・志村正浩。鈴木則文に通じる感覚は志村によるものか。
三隅炎雄

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