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石内尋常高等小学校 花は散れどものodyssのレビュー・感想・評価

2.0
【残念な出来】

イマイチの映画ですね。

その理由ははっきりしています。戦前の尋常小学校を描くシーンが圧倒的に足りないのです。柄本明ふんする先生が教室で教えるシーンは事実上一回しかありません。あとは先生の結婚と修学旅行だけ。これでは尋常小学校の日常は浮かび上がってくるはずもありません。

そのあと戦後の同窓会のシーンになるわけですが、先生が生徒達から慕われるという前提が成り立つためには、教室の場での先生と生徒の交流をあらかじめちゃんと描いておかないといけなかったはずなのです。なのに、上述のようにそれをいい加減で済ませてしまっているので、せっかくの同窓会シーンも盛り上がりません。

また、トヨエツと大竹しのぶが教え子のその後の人生を代表しているわけですけど、特にトヨエツは委員長を務めた秀才なのに家が貧しくて中学に行けなかったという設定があって、その後どういうふうにして東京に流れていって脚本家になったのかの説明がこれまたなさすぎます。
ついでに言えば、大竹しのぶはミスキャストじゃないでしょうか。むしろ川上麻衣子と役を入れ替えて、大竹を先生の奥さん、川上をトヨエツの思い人にしたほうが合っていると思います。年齢的にもそうですし、大竹のほうが田舎教師に嫁ぐ田舎女教師というイメージに合っているからです。

また、細かいところを見ると首をかしげたくなる箇所があります。例えば退職した先生が学校を懐かしむあまり学校前の家に住むようになって、しかし校庭に出入りしてこづかいさん(用務員)から追い出されるシーンがある。だけど昨今のように物騒な時代ならいざしらず、昭和30年前後にあそこまで警戒心の強い用務員がいたでしょうか? 学校は地域の共有財産という意識がむしろ濃厚だった時代のはず。また、トヨエツはストレートのズボン(あの頃はスラックスなんて言葉はなかった)をはいていますけど、昭和30年前後の男のズボンは基本的にダブルでしょう。

この映画を唯一救っているのは戦前の田舎教師を演じた柄本明の持ち味でしょう。しかしそれが柄本の孤軍奮闘に見えてしまう。監督はもう少ししっかり映画作りをやってほしかったですね。
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