うらぬす

アイアンクローのうらぬすのネタバレレビュー・内容・結末

アイアンクロー(2023年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

呪いの正体は、息子への愛と期待という大義名分のもとに強権を振りかざす父親と、その父親が作り上げたこの家庭そのものだった、ということなのか…。
ケビンが兄弟のことを母に相談したときに母が「兄弟間で解決しなさい」と返して、随分突き放すようなことを言うんだなと思ったら、終盤父が全く同じ言葉を口にしていた。つまりこれはあくまで父の方針で母は父(夫)に従っていたに過ぎないのか…と思うにつけ、つくづく父の業の深さを感じてしまう。彼の息子への愛に嘘偽りはなかっただろうけど、誤解を恐れずに言えば、愛の有無といわゆる毒親であるか否かは全く別問題なのかもしれない。
(夭逝した長男の死は事情が分からないからさておき)他の兄弟がこの世を去ることでようやく呪縛から解放された一方で、ケビンは自分自身が新たに家族を作ることで呪縛を解いたというこの皮肉…。とはいえそんな呪いだけの話ではなくて、兄弟の絆や思いやり、嫉妬を説得力のある形で描いたオーセンティックなヒューマンドラマとしても楽しめた。
そしてそれを思慮深く演出する監督の手並みにも正直驚かされた。肝心の勝利のシーンを自宅のリビングのテレビでどことなく物憂げに眺める母の姿を映したり、リングを囲むあのゴム状のやつ(名称が分からない)で激しく何往復もするケビンのシーンのカメラアングルと被写界深度などなど、印象に残った箇所は挙げたらキリがない。