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アイアンクローのjunjuoneのレビュー・感想・評価

アイアンクロー(2023年製作の映画)
4.0
絆の強い家族ほど、子供たちが背負う十字架は重い。
絆そのものが呪縛となり、人生半ばで生きづらさに気づいた時には抜け出す道が見えない。

これだけタフで微笑ましかった若者たちがそれぞれ迎える悲劇はいたたまれず、男版若草物語とはとても呼べない辛辣な現実を目の当たりにする。

もちろん、チャンピオンが生まれて脚光を浴びた兄弟たちであることは、代え難い栄光なのだけど。

皆さんのレビューも、この兄弟の悲しいまでの純粋さに触れてか、優しい。

実際には六男の自死もあり、ここが存在ごとカットされているが、もはや2時間で描くには深掘りが全く効かなくなる情報量になると判断したのかな。。


父がどれほどの毒親なのか、その描写があらわれるのを覚悟して待っていたが意外とそうではなく、、
確かにスパルタではあるが、非常に鼓舞する力に長けた姿に映る以上には、目を覆うほどの支配力を行使する場面は少なかった。

テンカウントでリングインしたケビンに、立ち上がるのが遅いとか、
デビッドの死の直後に、誰が次のチャンピオンになるかとか、
そういう話をするところ、まずい部分は見えていたけど、本当にまずいのは、息子が悩みを打ち明けた時に気持ちを汲まずに突き放したところなのかな。
その在り方は、妻にも伝播していたことが見てとれた。

ケリーが自死したのを発見したケビンに詰め寄られたとき、お前を頼ったんだ、と咄嗟に言ってしまうあたり、まずいよね。。


やはり事実としてあまりにもたくさんのことが起こりすぎていて、それを描くだけで映画としては題材が十分すぎるので、呪いの源泉に親の闇があったかどうかなどあえて深掘りする作りにはなっていなかった。


そして悲劇の連鎖とは無縁ではないはずの、薬物との深い関わりについての描写は取ってつけたようなもので済まされていて、そこへの父の関与も全く描かれていない。

ただ明らかに試合後のロッカールームで3兄弟が打った注射が全く無警戒にベンチに置きっぱなしなのを父が見ているのに、
それを直接強要していたような描写がないというのが、考えると余計不気味で、
観客が違和感すら覚えないほど、やってはいけないことも当たり前に父の指示に従っていたであろうことがこのシーンで想像できる。
ここはA24らしさを垣間見た。


ちなみに映画鑑賞後にYouTubeでフリッツ・フォン・エリックとジャイアント馬場の昔の試合映像を見たが、なかなか役者でいいレスラーじゃねえか。。
実際のアイアンクローが、あんなに血まみれになるほど強烈な技だとは知らなかった。。


ザック・エフロンの役作りは、本当に信じられない。
筋肉はもちろん、顔の骨格や表情の硬さまで、もうザック・エフロンではないとすら思う。

役作りとは、これほど別人を作り込めるほどに、人間にモチベーションを与えるものなのか、、
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