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アイアンクローのtorumanのレビュー・感想・評価

アイアンクロー(2023年製作の映画)
3.9
必殺技"アイアンクロー"で有名なプロレスラー、フリッツ・フォン・エリックと、父親に最強を宿命づけられた4人の息子達の衝撃の実話です。

スポーツがテーマの爽やかな感動作ではありません。
テイストは『レイジング・ブル』『フォックス・キャッチャー』のような悲劇要素の強い作品です。

一部の事件はプロレスファンには有名で、スポーツ新聞でも大きく取り上げられていましたが、その全貌は実話とは信じ難い内容でした。

アメリカ南部特有の、強く封建的な父と信仰心の強い母、銃と十字架が象徴的にカットインします。
そこに当たり前のように縛られている兄弟達。

「YES sir!」 家族というより軍隊のような関係。
不幸も神の思し召しと考える信仰心。
そして、代々伝わる"呪われた一家"としての逸話。

これらが絡み合い、加速度的に不幸が襲いかかります。

『アイ,トーニャ』のように、毒親による子供の不幸とも捉えられますが、この作品では、その不幸が宿命とさえ感じてしまう…この描き方が印象的でした。

エリック兄弟の次男役のザック・エフロンが圧倒的です。
肉体の作り込みと、ハーリー・レイス(本物そっくり!)との試合シーンは、本物のプロレスラーレベルです。
また、黙々と行うロープワークで自分を追い込んでいくシーンは、画面からオーラが漂うインパクトです。
家族の不幸を抱え込み、贖罪しているかのようで印象に残ります。

80年代の空気感を表現したフィルム撮影は、明るくもザラついた映像。
Tom petty and the HeartbreakersやRushからの挿入曲も、その時代らしさ、南部らしさを演出しています。

心痛な気持ちに打ちのめされる作品ですが、ラストの長回しシーンと本人達の写真に気持ちがホッとさせられます。
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