鈴木ドミノ

アイアンクローの鈴木ドミノのネタバレレビュー・内容・結末

アイアンクロー(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

ケビン役の俳優の筋肉量がものすごい。この映画のためにかなり過酷なワークアウトをしたのが伺える。レスリングシーンもキレがあり、物語内容に先んじてその役作りの真摯さに感動する。

ブルーザー・ブロディやリック・フレアーなど有名なレスラーが出てくるし、要所要所の演出がコミカルで(ブラウン管TVで映される80年代ショープロレス&トラッシュトーク)悲惨なだけでない作りが楽しめる。

映像部分では昔のフィルムカメラ的な質感のカットが挟み込まれるのが良かった。個人的にレザボアドッグスやビッグリボウスキのような質感の映像が好きだからというのが大きい。なぜあの手の質感が好きなのかについては自分でもあまり分からないが。(あえて言うと”優しい”から?)

プロレスラーの一生を描く映画はミッキー・ロークの「レスラー」が有名だが、今回の作品はプロレスラー家系の悲惨さと不幸を見つめているうちに、沈黙-サイレンス-のような「こんなにも苦しいのに神はなぜ答えてくれないのか?」というテーマにまで到達している。その点で「レスラー」とは異なる方向性に思えた。(母親が敬虔なクリスチャンであること、随所に登場する十字架や聖歌、教会のシーンなど直接的に表現しているのでわかりやすい。)

まんま星一徹的なキャラのフリッツ・フォン・エリックと保守的なクリスチャンであり前半パートでネグレクトが目立つ母親。それに対峙する息子たちというわかりやすい二項対立構図になっている。

エリック家の兄弟愛はブラコンの域に達しているが、その歪みの根本原因は両親にあるので、兄弟同士の仲睦まじいシーンもどこか痛々しい。

その親切かつ分かりやすい作りがマイナスに作用している部分もあると思った。ケリーが亡くなった後に三途の川を渡って兄弟と再会するシーンは流石にやりすぎというか滑稽に感じてしまった。(当該シーンで泣いているお客さんもいたので完全にダメとは言わないが)

父親と息子たちの関係も少し勧善懲悪的に描きすぎていると感じた。フリッツ・フォン・エリックがNWA世界ヘビー級のベルトにあそこまで固執するようになったり、マッチョで強権的な家父像をキャラクターとして獲得する経緯など、あのようなキャラクターになる諸原因は彼個人だけにあるのではないはず。その部分を掘り下げて欲しかった。(フリッツが若い時芸術を志した時期があると母親が語るシーンはあったが。。)

ただしこの勧善懲悪的な作りが「プロレス」自体への批評的な表出だとしたらそこは素直に脱帽せざるを得ない。

気になった点を訥々と書いてしまったが、全体として真摯に映画を作っている印象だし、プロレスとキリスト的なテーマを連結させているのが新鮮で非常に楽しめた。
鈴木ドミノ

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