なお

アイアンクローのなおのレビュー・感想・評価

アイアンクロー(2023年製作の映画)
3.8
TLに高評価なレビューがいくつも流れてきていたので、たまたま時間が合う回があり鑑賞。

相手の顔面を鷲掴みにし、強烈な握力でダメージを与えるプロレス技「アイアンクロー(鉄の爪)」で1960年~70年代のプロレス界を席巻したフリッツ・フォン・エリックを父に持つ4人の息子たち。
彼らは父と同じプロレスの道を歩むだけでなく、その道の先にある"王者"となることを宿命づけられていた──。

「呪われた一族」と呼ばれたフリッツファミリーの数奇な運命を、次男・ケビンの視点から描いた伝記映画。

✏️呪いを解く物語
学校のクラスに一人はプロレス好きで誰彼構わずアイアンクローをかけて回ってたクラスメートがいましたよね。
え?いない?

そんな学生時代のおぼろげな記憶を掘り起こさせてくれた「アイアンクロー」というプロレス技。
そういうプロレス技があることは知っていたけど、それを得意技としたフリッツ・フォン・エリックというレスラーがいることまでは把握していなかった。

ここで少しフリッツの経歴を遡る。
彼は大学時代にはアメフト選手として活躍し、その後1954年にプロレスラーとしてデビュー。
(劇中、息子たちとラグビーボールで遊ぶシーンもあった)

ナチ・ギミックのヒール(ナチス風の悪役レスラー)として鳴らし、US級ヘビー王座やAWA世界ヘビー級王座など数々のタイトルを獲得する。

日本との親交も厚く、ジャイアント馬場やアントニオ猪木など著名な日本人レスラーとも対戦。
セコンドにいた若手時代の大仁田厚を得意のアイアンクローでリングに引きずり出したという逸話も有名であるらしい。

引退後はWCCW(World Class Championship Wrestling)のプロモーターとして裏舞台からプロレスを盛り上げる。
本作にも登場するケビン、デビット、ケリーを筆頭に数々の人気レスラーを輩出し、一躍黄金時代を築いた。

そんな伝説的なレスラー、マッチョな父親の元で育った男4人兄弟の運命をなぞるのが本作である。

「いつ世界を獲る?」
対戦相手だけでなく、父からかけられる壮絶なプレッシャーとも戦い続ける兄弟たち。
プレッシャーをバネに戦いを重ねるケビンたちだが、彼らを悲劇が襲う。

三男・デビットは来日参戦中に急死(ちなみにこの時、近年バラエティ番組でも姿を見かける天龍源一郎とのマッチアップを控えていた)。

四男・ケリーはバイク事故により片足を喪失。
一時義足のレスラーとして奇跡の復活を果たすもドラッグの沼に溺れてしまい、最終的に拳銃自殺。

五男・マイクは精神安定剤の過剰摂取によって命を落とした。

また劇中では語られないが兄弟には六男・クリスもおり、彼もまたケリーと同じく拳銃で自ら命を絶った。

自分で書いていてつらくなるような、フリッツファミリーを襲う悲劇の数々。
次男ケビンはそれらを目の当たりにしながらも、この呪われた宿命と戦い続けた。

本作は、ケビンが一族にかけられた「呪いを解く物語」でもあったと思う。
史実を基にしているのでケビンが作中で亡くなることは絶対に起こりえないが、いつ兄弟たちの後を追ってもおかしくないほどケビンの表情はやつれ衰えていく。

悲劇が立て続けに起こる中盤以降、ケビンの表情は兄弟たちの死を悲しみ憐れむようであり、何かを後悔しているようでもあり、常に心ここにあらずな状態。
それほど、ケビンを演じたザック・エフロンの演技力は迫真であった。

自身も引退を決め、父が興した団体を売却。
全ての運命から解き放たれ、庭で遊ぶ息子たちの姿を見つつ目に涙を浮かべるケビンの"男泣き"には自分もグッと来てしまった。

プロレスのことを全く知らない自分でさえも心動かされる、フリッツファミリーにとって激動の数十年。
2時間強の尺でテンポも良いため、プロレスに興味がない方にもぜひ体感してほしい。

☑️まとめ
ケビンの二人の息子、ロスとマーシャルも"鉄の爪三世"として、日本のプロレス団体「プロレスリング・ノア」からデビューした。
(現在は「MLW」というアメリカのプロレス団体に所属)

本作で描かれた通り、ケビンが呪いに打ち勝ったからこそ紡がれたフリッツファミリーの新たな歴史。
「鉄の爪」のDNAはどこまでも受け継がれていくだろう。

<作品スコア>
😂笑 い:★★★☆☆
😲驚 き:★★★★☆
🥲感 動:★★★★☆
📖物 語:★★★★☆
🏃‍♂️テンポ:★★★★☆

🎬2024年鑑賞数:32(17)
※カッコ内は劇場鑑賞数
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