じゅ

ハネスのじゅのネタバレレビュー・内容・結末

ハネス(2021年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

ハネスがモーリッツとのツーリング中にバイク事故を起こし、脳に重篤な障害を負った。モーリッツの故障したバイクをその場で修理し、そのままバイクを交換して走っていた時のことだった。
ハネスはモーリッツの親友。同じ日に同じ病院で生を受けた時からずっと一緒だった。1分早く生まれたハネスが兄代わり。いつだって助けてくれた。モーリッツの母が亡くなり、父が独り失意の奥底に沈んで行った時、ハネスはモーリッツのもう一人の家族のようになってくれた。幼い頃から2人は、南米大陸最南端のフエゴ諸島にあるホーン岬へ旅することを夢見ていた。
ハネスの両親や恋人のネーレはモーリッツを避けた。共通の友はモーリッツを殴った。モーリッツも皆も寝たきりのハネスの病室へ頻繁に足を運んだ。モーリッツはハネスの傍で幾夜をも明かした。モーリッツはハネスに代わり、復帰するまでと彼が勤務していた精神病院で働き始めた。同時に、住み込みの部屋で見つけたハネスの日記に続きを綴ることにした。やがてハネスは自力で呼吸できるようになり、目を開き、モーリッツの手を握り返すようになった。皆少しずつモーリッツと和解し、ハネスの父は事故で潰れたバイクをモーリッツと共に修理した。ネーレはハネスの事故の前に妊娠しており、娘のヨハンナが生まれた。
それでもハネスはさらなる回復はしなかった。感染症にかかり、予断を許さない状況に陥った。モーリッツは夢を見た。モーリッツと共に雄大な山々を眺めるハネスは、もう行かなくてはとモーリッツの傍から歩き去った。モーリッツが目を覚ますと、病床のハネスは息を引き取っていた。

1年後、モーリッツは単身で海を渡りフエゴ諸島を目指していた。罪悪感は消えない。それまでずっと付けていた日記はヨハンナに渡すと言う。モーリッツはハネスに赦しを請える時まで旅を続ける。


実話に基づくそう。きついな。自分がバイクの点検を怠ったせいで兄弟のような親友を寝たきりにした。母を亡くした時、父が放心して手を握ってくれなかった時に代わりに握ってくれた親友だった。
ネーレがモーリッツを隔てる窓を殴った時、ハネスの両親がハネスの愛犬のゾロを受け取って少しの無言の後にそっと扉を閉めた時、どう思ってただろう。いっそ怒りをぶつけて湖のあの友人みたくブン殴ってほしかっただろうか。モーリッツのみぞ知る。

立ち直れる家族と立ち直れない家族があって中間はないのだと。モーリッツの家族は後者だった。ハネスの家族はどちら側だっただろう。前者であってくれるようモーリッツが働きかけてがんばったんだろうか。そんな綺麗なおとぎ話ではないか。モーリッツはただ一点の曇りもなくハネスの回復を信じただけというか。ハネスの犬を渡したのは単に自分じゃ世話できなかっただけで、バイクの修理の話を持ち出したのは単にまたハネスと乗りたかっただけか。でも、見方によっては素直で健気なそんなモーリッツの姿が多少は家族の心を慰めたと信じたい。そしてそれは無力ではなかったと信じたい。


モーリッツ、良く言えば素直で悪く言えば軽率。ハネスがいる病院の看護師の唇奪ってみたり、教会が運営する精神病院のセクシーな医師先生と体の関係になってみたり。
患者に飲ませる薬を一緒に飲んで危ういことになった件は、それが彼なりの患者との対等な接し方だったと思えばまあ大目に見れるところはある?ないか。ドクターの尻に釣られて人のいない草原で車であんなことやこんなことやってたのはなおのこといただけんぞ。元々ハネスの代わりで入ったつもりならハネスのためにもちゃんとしよう。

とはいえ、全く逆にモーリッツが四六時中ずっと悲観に明け暮れてたらそれはもう地獄みたいなことになってたかも。結局、苦しい時にあんな軽率なやつが1人いてくれた方が後々いいのかも(?)。いつの日かの快方を全く疑わないで今までの物事をキープしててくれて、ついでに周りを良くも悪くも掻き乱してくれるやつ。

実際、花束のおっちゃんが(第一声が「殺されたいか」であれ)喋ったのも、孫娘を亡くした恩師先生を息子と再び会わせられたのも、モーリッツの無茶苦茶さ加減の賜物なかんじしてたな。


ハネスの最期、モーリッツが見た夢の中で、充実した人生を十分に生きたみたいなことを言ってたのはモーリッツの願いを表していたと思ってる。夢は自分が見るもので、(魔術でも使わない限り)他者の想いを反映するものじゃないという感覚が常にあるので。
ともすれば、悔いを感じさせないハネスの言葉はモーリッツからの彼自身への赦しに一瞬思えるけど、どうやらそれも違う。1年後も罪悪感が残っていると語っていたので。であれば、心のどこかでお別れの決意が整ったことを表していたのかもしれない。ハネスが完全に回復してまた今までのように一緒にいられる日が来た時のための準備に全振りしていたモーリッツの心を、換言すれば実は誰よりもハネスにすがり付いていたかもしれないモーリッツの心を、やっとこさ解き放てたのかもしれない。

モーリッツ、ハネスの分まで全力で生きろ。
じゅ

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