シズヲ

レザボア・ドッグス デジタルリマスター版のシズヲのレビュー・感想・評価

4.0
『ライク・ア・ヴァージン』の下ネタ話で幕を開けるというタランティーノ節全開の冒頭シーンで何度見ても「大丈夫か?」とソワソワさせられるが、いざオープニングに突入すると問答無用で引き込まれる。黒スーツの男たちが並び歩く絵面に『リトル・グリーン・バッグ』を流すタイトルバックのセンスにやはり痺れるばかり。そんなこんなで劇場にてデジタルリマスター版鑑賞、音質も画質も実に良い。長々とした無駄話、過激なバイオレンス、下品なユーモア、時系列シャッフルなど、デビュー作で既にタランティーノの作風は確立されている。

ギャング集団による強盗計画という筋書きを用意した上で“失敗して逃げ延びた後”に映画の軸足を置き、そのシチュエーションに展開や編集を収束させる構成に相変わらず唸らされるばかり。初めから計画失敗後の混乱が物語の骨子なので、場面の時系列が入り乱れても映画の一貫性は保たれるのだ。タランティーノは物語のフラグを“強盗失敗の事後”に集約させることで、パッチワークのようなシーンの数々を見事に纏め上げている。

そして作中のギャング達、既に強盗計画に失敗しているので不可解な状況にブチ切れながら口論を繰り広げる。とにかくキレて言い争う男たちの疑心暗鬼ぶり、殺伐としているのにその必死さも相まって何処かコントのような滑稽さが漂う。緊張感溢れるシチュエーションでありながら、サスペンスとユーモアが奇妙な共存を果たしている。義理堅いホワイト、死にかけのオレンジ、神経質なピンク、不気味なブロンド……と言った形で、登場人物のキャラ立ちやそれに伴った配置も絶妙である。ハーヴェイ・カイテルやスティーブ・ブシェミなどの一癖ある役者陣も味わいに満ちている。

音楽の使い方もやはり強烈であり、前述したようにオープニングのシーンはバチクソに決まっている。70'sの音楽を駆使したスタイリッシュな演出によって、タランティーノは暴力というロックンロールをポップスにまで落とし込むことを成立させている。中でも残虐な拷問シーンで『スタック・イン・ザ・ミドル』を飄々と流すセンス、後年のバイオレンス映画にも多大な影響を与えているであろうインパクトがある。

デビュー作としては余りに野心的でありながら、本作は「ギャング達の強盗計画」「疑心暗鬼のサスペンス」「悪党の仁義」というシンプルな要素で構成されているのが面白い。設定の単純化によって物語の贅肉は削ぎ落とされ、余った尺はあろうことか他愛もない長話に費やされる。タランティーノ恒例の無駄話演出は単に冗長でしかないことも多々あるので正直そんなに好きではないけど、猥雑な空気感と登場人物の人間味を浮かび上がらせることは成し遂げている。

この映画はそうしたユーモアに加えて、疑心暗鬼の状況下における“身内への仁義”が一種のミソと化している。特にホワイトの義理堅さはある種イノセントにさえ感じる。それだけに終盤、信じていたものが崩れ落ちたホワイト=ハーヴェイ・カイテルの悲痛なうめき声がとにかく忘れ難い。そんなこんなでレザボア・ドッグス、久々に見て思うけど一発目でこれ撮れるタランティーノはやっぱり凄い。2対1で同時に撃って何故か2人が同時に死ぬ下り、完全に勢いで流してて好き。
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