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レザボア・ドッグス デジタルリマスター版のkuuのレビュー・感想・評価

4.0
『レザボア・ドッグスデジタルリマスター版』
原題 Reservoir Dogs  映倫区分 PG12
製作年 1991年。上映時間 100分。
クエンティン・タランティーノの監督第1作『レザボア・ドッグス』デジタルリマスター版。
小劇場にて。
1992年サンダンス映画祭で初めて上映され、過去に類を見ない斬新な構成と過激なバイオレンス描写で絶賛された今作品。
宝石店強盗計画に失敗した男たちがたどる運命を、独特の語り口で緊迫感たっぷりに描いたクライムドラマ。
日本での2024年1月、デジタルリマスター版でリバイバル公開は、30年ぶりとなる。
キャストには本作の制作にも尽力したハーベイ・カイテルをはじめ、ティム・ロス、スティーブ・ブシェーミ、マイケル・マドセンら個性豊かな顔ぶれが揃った。 
余談ながら、今作品の予算は非常に低かったため、俳優の多くは衣装として自分の服を持参するよう求められたそうな。
特徴的な黒いスーツは、アメリカ犯罪映画ちゅうジャンルに対する愛着に基づいて、デザイナーが無償で提供したもの。
スティーブ・ブシェーミはスーツのズボンの代わりに自分のブラックジーンズを履き、マイケル・マドセンは2つの異なるスーツのジャケットとズボンを着用していた。

宝石店を襲撃するため寄せ集められた黒スーツ姿の6人の男たち。
彼らは互いの素性を知らず、それぞれ『色』をコードネームにして呼び合う。
計画は完璧なはずだったが、現場には何故か大勢の警官が待ち伏せており、激しい銃撃戦となってしまう。
命からがら集合場所の倉庫にたどり着いた男たちは、メンバーの中に裏切り者がいると考え、互いへの不信感を募らせていく。

今作品『レザボア・ドッグス』について、まだ語られていないことってあるかな?
その暴力シーンのために公開後、道徳的な反発が巻き起こり、物議を醸したことは云うまでもない。
それで思い出したのは『チャイルド・プレイ3』。
このシリーズ3では、1993年にイギリスで2歳のジェイミー・バルガーが10歳の少年2人に殺害された事件に影響を与えたと誤って報道された。
(ジェイミー・バルガー事件《ジェームス・バルガーとも》は1993年2月12日イギリスのリバプールで起こった誘拐殺人事件。映画中の殺人人形チャッキーによる殺し方と酷似していると『ザ・サン』紙は報じたことから物議に発展)
実際、当時この映画のVHS発売は、英国映画分類委員会が当初この映画のホームビデオ認定を拒否したため、1995年まで延期された(英国での公開作品は、劇場公開用と家庭での鑑賞用に別々に認定を受ける必要がある)。
幸いなことに、現在はよりリベラルな時代に生きており、この映画はカルト的な人気を得ているが、それは当然のことと云える。
横道にそれたが、当時29歳だったクエンティン・タランティーノの監督デビュー作で、彼はそれまでビデオ店員として働いる中、今作品の脚本を書いた。
彼のトレードマークとなったモチーフで構成された、印象的な初長編作品やった。
暴力的な犯罪、ポップカルチャーへの言及、冒涜的な表現、非線形のストーリーテリング。
ダイヤモンド強盗の失敗を軸にした今作品のセールスポイントのひとつは、ウィットに富んだ見事な会話かな。
マドンナの『ライク・ア・ヴァージン』の歌詞についての議論であれ(ちなみに、マドンナは、"あの歌は巨根の話ではなく、純粋な愛の歌です"なんてメッセージを書いたアルバムをタランティーノに贈ったと云われる)、チップの倫理観であれ、タランティーノは完璧な耳を披露する。
しかし、それ以上に今作品を高めているのは、ハーヴェイ・カイテル演じるミスター・ブラウンとティム・ロス演じるミスター・オレンジの関係で、オレンジが逃走中に重傷を負ったとき、ブラウンは傷ついた仲間を慰める思いやりを見せる。
それぞれの男の間には紛れもない絆が芽生え始め、盗賊の中の名誉という古い格言が真実味を帯びてくる。
これとは対照的に、ブラウンとミスター・ピンクの関係は調和がとれておらず、ピンクが間違いなく最も陰険で利己的であるという事実も手伝って、より険悪。
しかし、彼は現実的でもあり、多くの場合、理性の代弁者であり、頭脳明晰で、肉体的に最も脅威的ではないものの、過小評価されてはならないキャラであることがわかる。
彼の現実主義がブラウンを苛立たせることもあるが。
しかし、ミスター・ブロンド(マイケル・マドセン)がついに登場すると、事態は本当にヒートアップし、緊張はさらに高まる。
彼は間違いなく、今作品の悪党一味の中で最も予測不可能な人物。
マドセンは冷静で氷のような態度で演じているが、その冷静さの下には無慈悲でサディスティックなサイコパスの心が潜んでいる。
彼の存在によって、その場の空気は否応なく不穏で不安定なものになる。  
ジェリー・ラファティの『Stuck in the Middle With You』に乗せて繰り広げられる悪名高き拷問シーンは、そのことを如実に物語っている。
彼が『パルプ・フィクション』で間違いなく最高の独創的効果を発揮することになるノンリニア構成で、ブラウンとブロンドの2人がジョーとエディ・キャボットと出会うフラッシュバックは、犯罪組織のボスとその息子との2人の関係を洗い出すのに役立つ。
物語のダイナミックな展開に新たな次元をもたらしている。
エディのブロンドに対する揺るぎない信頼と、ブラウンが直面する忠誠心の不安定な分裂。
個人的にはキャスト陣の演技も一様に一流やと思うし、それぞれのスターが互いを引き立て合っている。
特にティム・ロスは、コックニー訛り(イギリスで最も有名な方言の一つ)をまったく感じさせない完璧なアメリカ訛りを披露している。
また、ミスター・ブルーちゅうコマい役にキャスティングされたエディ・バンカーが前科者で、犯罪小説の作家に転身していたことは意外かもしれないが、今作品にさらなる真実味を与えています。
云うまでもないとは思いますが、『レザボア・ドッグス』は型にはまらず、映画製作の新時代を切り開いた作品やないかと。
確かに、『ジャッキー・ブラウン』が彼の作品のどん底であり、『デス・プルーフ』はそれ以上だというのが個人的不評な意見です。
とは云え、タランティーノは失敗した作品よりもヒットした作品の多く、このデビュー作は彼の前途を物語るものと云える。
有意義な劇場鑑賞でした。
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