ブタブタ

奇談 キダンのブタブタのレビュー・感想・評価

奇談 キダン(2005年製作の映画)
4.0
『奇談 妖怪ハンター2』
「おらといっしょに“ぱらいそ”さいくだ!!」

三鷹市美術ギャラリーでの『諸星大二郎展 異界への旅』へ行き諸星大二郎熱の高まりと共に『ヒルコ』を久々鑑賞に続いて本作も映画館で以来の鑑賞。
諸星大二郎『妖怪ハンター:稗田礼二郎』シリーズ『生命の木』の映画化。

「あの“毘流古の里”の稗田先生ですか?!」のセリフから本作は『ヒルコ 妖怪ハンター』の続編である事を暗に示唆している(時代設定は違うけど)

制作は一瀬隆重である。
80~90年代のスプラッターホラー映画ブームの世界的潮流は日本にも入って来てVHSビデオ、Vシネマ等をフォーマットとする低予算映画、特に特殊メイクに力を入れたSF・ホラー作品を多数産み出す。
『餓鬼魂』『キクロプス』やJホラーの始まりとも言える『邪願霊』等の後に繋がる実験的作品が次々と制作される。
それは『リング』に代表されるJホラーとなり、もう一方で同じく超能力や超常現象をテーマとする言わば「Jスリラー」とも言える作品群があった。
この頃に作られた『帝都物語』『アナザーへヴン』『NIGHT HEAD』等の超能力や超常現象をテーマにしたスリラーやサスペンス映画。
『奇談』もその系譜の末尾に入る作品だと思う。

『ヒルコ』が塚本晋也監督によるアクションとケレン味溢れるホラー・アクション映画だったのに対して『奇談』は諸星大二郎の原作に忠実な伝奇スリラー映画。
なので特に前半は単調で淡々と進みラスト以外の映画的な盛り上がりに欠け、その点が評価が低い原因だと思う。

妖怪ハンター「生命の木」は東北地方の隠れキリシタンの歴史的事実と共に、キリストは実は日本にやって来ていた等の御伽噺的な伝説、そして古代から続く邪神達の神話、クトゥルフ、土着的伝承、カルト集落、それ等を絡めた伝奇ロマン。

『ヒルコ』の沢田研二版と違い阿部寛による稗田礼二郎はクールでミステリアスな美男子、異端の考古学者のキャラクターを髪型以外は忠実に再現している。

ゴルゴタの丘で磔刑にされたキリストは実は偽物であり本物は密かにエルサレムを脱出し海を渡った。
そして東の果ての国「じぱんぐ」に漂着しその墓は青森(!)に今もある。
それ等のキリスト生存説の伝承は世界各地にある。
この「キリストの遠征」とはつまりキリスト教の流布と同義であり「キリスト教」という情報が世界中に拡散する事で、其れは心・精神に影響を与えるウィルス=ミームであり世界各地でキリスト教の亜種及び「変異体」を生むこととなる。

秀吉・家康による苛烈を極めたカトリックへの「切支丹狩り」は外国から入ってくる宗教というウィルスから仏教・神道を守る意味もありその弾圧により多数の殉教者を生んだ(この辺は『沈黙』を見よう)
やがて残忍な拷問や処刑そのものが信者にとって神に近付く為の「試練」となり益々信仰心を高め信者達の結束を高める事となる。
それ自体が「血の儀式」殉教者は「生け贄」となり「隠れキリシタン」そのものがカトリックから分派した「邪教」となり日本土着の神々と結び付きそれ等太古の神々を召喚する「依り代」になったりする。

エヴァでも引用された知恵の実と生命の実。
知恵の実を食べた人類は楽園を追放され、生命の実を食べた「何か」が地球には存在している。
『ジョジョリオン』でも生命の実及び知恵の実の亜種?であるロカカカの実を巡る争奪戦が繰り広げられ結局荒木先生が途中で飽きたのか最後は有耶無耶になりましたが。
知恵の実を食べた人間と生命の実を食べた不老長寿の人間、これらはキリストによってエデンの園から世界中に植樹、ばらまかれた結果であり(つまりキリストは世界中に何人も現れる)正にウィルスが伝染していくのと同じシステムで、更に土着の神々と結びつく事によって起きるシステムエラー=変異体を生み出す。
その結果が地獄の扉が開いたり邪神を召喚してしまったり『妖怪ハンター』シリーズで描かれてる様な内容の話しになる。

三人のヨハネ、「いんへるの」、光の十字架等などクライマックスは当時のCGながら原作を忠実に再現している。

磔刑にされたキリストの見立て殺人や崖崩れによる外部と隔絶されたクローズドサークルなどミステリー要素もあり、稗田礼二郎は金田一耕助と同様の只最後に解説するだけの「傍観者」であり故に無敵の存在。

諸星大二郎の妖怪ハンター・シリーズの映画化は『ヒルコ』『奇談』の二作のみ。
希望を言えば最高傑作の呼び声も高い『暗黒神話』に稗田礼二郎を加えた映画版を見たい。

『暗黒神話 妖怪ハンター3』
稗田礼二郎は髪型から逆算して又吉直樹先生がいい。
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