あなぐらむ

16ブロックのあなぐらむのレビュー・感想・評価

16ブロック(2006年製作の映画)
4.0
ブルース・ウィリスとリチャード・ドナーが組むと聞いたら、80~90年代アクション好きとしてはソソられるものがやはりある。

プロット的には「アサルト13」に非常に似ている。立て篭もるか、逃げ回るかの違い。犯人グループが比較的早い段階で知れてしまうという点も同じ。
そうなると、その後のストーリーテリングがいかに面白いか、緊張感をどれだけ維持できるかというのがポイントになってくるわけだが、このホンは中々よくできてる。
言ってみればこれはNYの16ブロックの区画の中で孤軍奮闘する「ダイ・ハード」。敵を欺き、出し抜きながら人ごみの中、狭い路地の間を逃げ回る緊張感。どこから銃撃が来るのか、どこに逃げれば隠れられるのか。
物語は少しずつエスカレートして、「スピード」から「ガントレット」まで髣髴とさせながらクライマックスに突き進む。

ブルース・ウィリスが今はダメな酒浸り刑事ながら、かつては相当キレ者だったろうという事を印象づける様々なエピソードが(女性の部屋でトイレの便座があがっていた事から侵入者に気づく、内通者の有無を調べるために、わざと違う部屋の番号を電話で知らせる、など)ニクい。
また最初の襲撃犯を咄嗟に撃ち殺すシーンで、銃がジャムを起こしてしまう辺りに、やさぐれて手入れなどしていなかったという事を感じさせたり、描写がひとつひとつ丁寧なのだ(このシーンの、一瞬世界がスローモーション+無音になり、ふわっと現実に戻ってくる描写
も見事。観る者と主人公に感覚を共有させている)。

基本的にはおしゃべり黒人と寡黙な白人のやりとりで全編見せるバディ・ムービーのスタイルで、ラッパーでもあるモス・デフが非常に特徴のある声で終始喋り捲るのだが、その中にヒューマンな味付けもあって微笑ましい部分を見せる。
この男、司法取引の後、腹違いの妹のいるシアトルで誕生日ケーキの専門店を開くつもりなのだ。
どんなに悪党であっても人は善行をすれば変われる、というポジティブな黒人と、日づけのように人は変える事ができない、と主張するネガティブな白人(それにはある理由があるのだが)。
そんな二人がともに逃げるうち、徐々にお互いに影響を受け、変わっていく過程こそが本作の本線となる。
いくらでも悲劇的に、ヒロイックに物語を締めくくることもできたのに、あえてそうしないできっちりとケリをつけさせるラストとその後日談は、本作がただのアクションドラマに終わらない、人間ドラマである事を示している。

ブルース・ウィリスはわざとウェイトを増やしてかなりの老け込みを感じさせる役づくりを見せて新境地。
しかしやっぱりアクションスター、「世界で一番運の悪い男」の再来といった感じで銃撃戦もきっちり見せてくれる。
モス・デフは最初どうにもあの声が耳につくが、中盤の女の子を励ますエピソード辺りで好感を持った。中々によい役者ぶり。

そして、かつての主人公の相棒役のディビット・モース。
憎たらしい悪党ではあるが、どこか自分と違う道を行ってしまった主人公に寂しさを感じているようなその雰囲気は流石の演技派ぶり。
この刑事二人の関係性は、何となく「リーサル・ウェポン」のネガ像のような気がして、ちょっと切ない。
そう、この作品は白人と黒人、そして明暗の刑事二人、両方のバディ・ムービーでもあるのだ。

男ばかり出てくるなんとも硬派な映画だが、ビジュアル・エフェクトに頼らない、人と人のアクションを中心に据えた昔気質のアクション映画の小品である。老匠・リチャード・ドナーの職人芸を堪能できる一作だ。
エンディングに流れるバリー・ホワイトがなんともあったかい。