akiakane

NO選挙,NO LIFEのakiakaneのレビュー・感想・評価

NO選挙,NO LIFE(2023年製作の映画)
4.3
「選挙」ってなんだか遠い存在だ。特に立候補する人は、既存政党に属する人、もしくはかなりの目立ちたがり屋か奇特な人というイメージがある。生まれてこの方一度も棄権・白紙投票をしたことのない自分ですらそう思うのだから、選挙に情熱を注ぐ人々の姿って一般社会からはかなり遠い。
でも候補者だって日々社会で生活する一市民で、一人ひとりに考えがあり、社会に物申したいことがあるし実現したい要望がある。
そして選挙で選ばれた人が決める法律や仕組みは、一時間働いたらいくら稼げるか、稼いだ金から税金がいくら引かれるか、何を守ってくれるのか、何が罰せられるのか、社会のあらゆることを決めてくる。政治に興味がない人でも、政治は無関係にしてはくれない。

そして、新規参入者と成り上がりの可能性がない組織や業界は球団だろうがファンクラブだろうがソシャゲだろうが政治だろうが必ず衰退する。
今は僅かな人たちの中のさらに条件が揃ったごく僅かな人が想定した「社会」と「普通」と「損得」に基づいてルールや諸問題の対応が決められている。あらゆる議会が、特に国会はまるで社会の縮図になっていない。
そりゃあ数々の社会問題が何年経っても解決しないわけである。

ほぼ返ってくる見込みのない300万円を払って街頭に立っても主要メディアに取り上げられず、ほとんど誰も聞いてもらえない演説、実入りが全く割に合わない選挙取材、辺野古基地建設工事前での座り込み——畠山に限らず、本作に登場する人々は損得勘定で判断すればわざわざ損をしにいく(ように見える)少数派だ。
「やっても無駄」と、「で、結局、その人は当選しないんでしょ?」と、ほとんど無かったことにされても声を上げることを諦めない人がいる。幾度も辞めそうになりながらその人たちを追いかける人がいる。その人を生温かく(≠温かく)支える家族がいる。

本作では、当たり前の「政治参加」ができないことそのものに疑問を呈すと同時に、この国における立候補がいかに面倒で高いハードルなのか、そして選挙には思いのほか色々な見方あることも教えてくれる。

一方で、ある分野に本気で踊る阿呆とそれを見る阿呆を見るのはシンプルに面白い(個人的には推し活に近いものを感じた)ので、選挙とか政治とか興味ない、という人にもおすすめである。(畠山を師匠と呼ぶ時事芸人のプチ鹿島に先行上映会で「変態映画ですよ」「クレイジージャーニーに出るべき」と言われるだけのことはある)

「丁寧に」「誠実に」「真摯に」説明していくと言った偉い人たちが一度も守ったことのない丁寧や誠実や真摯を、終盤、主要メディアが取り上げなかった無頼系候補が守った口約束が上回っていく。ごく一部の人が仕切り続ける変化の乏しい社会の衰退と余裕の無さを感じつつ、何だかんだ諦められない社会への希望と期待を確認した一作。

《余談》
①先行上映会にて
(Tシャツの文字「VOTE OR DIE!」)
畠山:ある人の演説と雑踏の中、「諦めるな何があっても」という歌が聞こえる場面があることに観賞3回目で気づいた。「さすが前田監督」と言ったら前田監督含むスタッフ一同から「…何がですか?」と返ってきた(笑)
→偶然の産物だったそう。ドキュメンタリーはこれだから最高だぜ。

②パンフレット
「諸派党構想」など、畠山への密着取材で前田亜紀監督が知ったこと、畠山を選挙ライターに「仕立て上げた」大川興業総裁の大川豊氏や日本中学生新聞代表の川中だいじ氏といった珍しい方々の寄稿文など、文字数と情報量が多い。
購入推奨。

③本作を観る人はもともと選挙や国会に興味がある人ではないだろうか。
選挙に興味がない人の心を動かすようなタイトルがほしかった。
akiakane

akiakane