振り返ってみるとかなり雑なところもあるシンプルなストーリーなのだが、ねっとりとした爽快感(かつ満腹感)があり面白かった。
なんといってもバリーコーガン(バリーキオガン)無双。無表情であっても、醜くも美しくもあり、愚かにも賢くも見え、闇でありピュアでもある、あの顔が画面いっぱいに映る。
オリバーは、彼の唯一無二の"顔と身体"に当て書きされたかのようなキャラクターだ。
舞台となるソルトバーンの絵画のようなダークファンタジー的美術や美しい風景は、屋敷そのものとその土地そのものの素晴らしさに負うところが大きい。
つまり、「バリーinソルトバーン」をじっとりと堪能せよという映画だった。、というのは、かなり語弊があるとは思うが、これが見た直後の感想だ。
ネタバレ
ほぼ、「太陽がいっぱい」や「パラサイト」なのだが、オチは逆。乗っ取り完了だ。
「貴族の慈善」が偽善の醜悪な形であることを何度も見せつけ、バリー演じるオリバーの成り上がりを観客皆で拍手する構図。
「聖なる鹿殺し」の彼を思い出させる彼の役だが、仮装パーティーでの仮装が鹿だったのはある種の神であることを比喩していたのか。と同時に貴族たちに火で炙られ食われる動物でもあるという描写も効いていた。(青い目の丸焼きの豚)
前半のねじれた愛と欲や卑屈さまではかなり深みのあるミステリアスな物語だったが、後半の乗っ取り行動のあたりから、(わかりやすく面白くはなったが)ちょっと浅くなった感があった。
金持ち貴族の精神構造の卑しさは物語のポイントだが、そもそも本当にあんな貴族はいるのだろうか。"階層の低い"(低ければ低いほど良い!)人間をペットのように可愛がるような。あまりに奇異的に描きすぎ?この映画に現実感を求めないほうがいいか。
あと、ゴーンガールやパーフェクトケアのロザムンド・パイクの役を思い出すと、奇妙な悪の爽快感の逆転を思い出してニヤリとできる。