マヒロ

Saltburnのマヒロのレビュー・感想・評価

Saltburn(2023年製作の映画)
4.0
(2024.5)
オックスフォード大に入学したオリヴァー(バリー・コーガン)だったが、地位もコネもない上に大学生たちの明るいノリに着いて行けずに孤立していた。ある日、自転車の故障で立ち往生していた人気者の同級生フィリックス(ジェイコブ・エロルディ)を助けたことから彼との交流が始まり、夏休みに貴族の家系であるフィリックスの実家のお屋敷に招かれる……というお話。

常に真意の読めないオリヴァーという役は主演のバリー・コーガンに当て書きしたのかな?と思えるくらいのハマり役で、単なる引っ込み思案の小心者にも、爬虫類的な感情の抜け落ちたかのような目線が他人を捕食せんとする凶悪な生き物にも見える、不安定で不気味な存在感が素晴らしかった。
オリヴァーが上流階級の出であるフィリックスに愛憎入り混じった感情を抱く様は『太陽がいっぱい』を彷彿とさせるところが、屋敷に侵入して決定的な何かを変えてしまう異様さは『テオレマ』っぽいが、それらと違うのは超常的な雰囲気こそあれどあくまで普通の人間であるという感じは最後まで崩れないところで、身近な人間の振りをしている怪物みたいな得も言われぬじっとりとした怖さを纏っている。アラン・ドロンとかテレンス・スタンプは格好良さが振り切れていて架空の人物感が強かったので、映画としては華があって良いんだけど、このタイプ役柄でいったらバリー・コーガンは今右に出る者がいないんじゃないかと思わせられる。
また、フィリックスを演じるジェイコブ・エロルディの稀代の男前っぷりも素晴らしく、オリヴァーを狂わせるに値するチャーミングさに溢れていてこちらもまたハマり役。ロザムンド・パイクやリチャード・E・グラントなどベテラン勢も出演しているが、今作はこの若手二人の映画と言っても良いと思う。

主人公の真意が見えないという点では、同監督の『プロミシング・ヤング・ウーマン』にも通じるものがあり、最後の最後までどう転がるのか読めないスリリングな楽しさもあった。
ただ、最後まで行くともうちょっと行きすぎていても良かったかなと思うところもあり、フィリックスの屋敷での形骸化した貴族的な暮らしとか、それを破壊しようとするオリヴァーのやり口とか、もっとめちゃくちゃやってくれても良かったかなという気もした。いや、充分めちゃくちゃではあるんだけど、このキャスティングと脚本、監督の映画的センスがあれば更に突き抜けられるポテンシャルはあるんじゃないか……と欲張りたくなってしまう。
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