傘籤

デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章の傘籤のレビュー・感想・評価

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原作はさいごまで読んでいるのでオチまでぜんぶわかっている状態で鑑賞。でも時系列をいじっている部分があったし、後半ではもしかして原作とは異なるエンディングに行きつくこともあり得るのかしら。だったら余計にはやく続きが観たいぞ。

さて内容ですが、なんというか正しく「いま・ここ」のSFをやっています。突如飛来した巨大宇宙船が引き金となり都市が壊滅してから3年後、上空には依然「母艦」と呼ばれる円盤が存在し続け、様変わりした風景はいつしか”見慣れた”日常と化していた。門出(かどで)と凰蘭(おんたん)ふたりの女子高生は級友らとともにモラトリアムな日常を満喫中。しかし何も変わらないなんていうことはないわけで、少しずつすこしずつ彼女たちの生活には亀裂が入っていく。

SF作品ではありますが、東日本大震災や新型コロナウィルスを彷彿とさせる設定のため、自衛隊の動向をシミュレートした描写が多いです。なので「ここ『シン・ゴジラ』っぽいなー」と思うことがたびたびありました。ふたりの女子高生が世界のカギを握るという設定は『ハーモニー』を思い出したし、幼少期の出来事が大人になったいまと繋がるという展開は『20世紀少年』ぽくもある。あとこれ後編の要素だけど『君の名は』に近い展開もあるんだよなあ。そんな感じで色んなサブカルチャー、特に2000年代から2010年代にヒットした作品の要素を上手く取り入れ、「こんなこといいな」な世界観を作り上げています。原作者が浅野いにおということもあってか、ちょい意識高めの台詞を言うキャラクターが多いのも特徴で、政府批判とか社会批評に近い言説が多数。ネットに広がる真偽不明のニュースとか陰謀論に傾倒しちゃうキャラを登場させることで、「都市」と「ネット」にアクセスする人々のリアルを可視化させるというのもテーマのひとつなのかも。震災や疫病によって一変した「社会」、しかしそれでもやっぱり「個」である私たちの生活はほとんど変わらない。その歯がゆさと安心感。そういう2020年を通過した多くの人が知ってしまった感覚をフィクションを通して上手く捉えている気がします。

話の中には作中作として『イソベやん』という『ドラえもん』そっくりの漫画が登場するのだけど、これはただのパロディというだけでなく、門出がどういう人物で、なにを望んでいるのか分かりやすく伝える仕掛けになっていました。とりあえず本作においては正義というものの「あいまいさ」や「危うさ」が描かれていきます。また登場する宇宙人に敵対する意思があまりなく、単体の能力で見れば人間よりも明らかに”弱い”という設定も重要な部分。おそらく『第9地区』からの影響があるのだろうけど、そんな感じで既存作品をさらに角度を変えて深堀しようとする姿勢が感じられます。んが、そのせいで全体的に既視感は強め。それをまとめるだけで大したものだけど、なんというか自分の守備範囲内の要素しか出てこないため観ていてワクワク感はあまりなく、「あー、そこから引用したわけね」とすごく冷静な気分で眺めていました(いやな観客……)。ほんとはもっと素直に作品単体で観て、「日常」×「終末」SFとして楽しむのが正解だとはわかってるんですが……。

あと、おんたん役を務めたあのちゃんの演技は本作の見どころ。エンディングの曲も作品とマッチしていてかなり良かったし、才能ある人ですねー、あのちゃんって。そういえば途中途中ではさまれる音楽もかなりセンス良かったな。サントラ出たら聴こうかしら。劇場作品なので全体のビジュアルは相当気合いが入っていたし、デジタルの文字が画面に「表示」されザザッとノイズのように消えていく演出も地味に好きだった。話の硬質さとか手堅いストーリーテリングに対してデフォルメした漫画的な顔立ちをしたキャラクターが平然と出てくるアンバランスさも作品の持ち味に一躍買っている気がします。後半は5月ですか。続きはやくー。
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