れおん

熱のあとにのれおんのレビュー・感想・評価

熱のあとに(2023年製作の映画)
3.7
すべてを捧げるからこそ愛は永久不滅で、そのほかは愛に近いもの。愛したホスト・隼人を刺し殺そうとした女・小泉沙苗。事件から6年後、燃え広がる隼人への愛を消化するように、"お見合い"で出会った健太との安定な結婚生活を手に入れる。現実を馬鹿にしないでよ。偶然か必然か、出会った隣人の足立よしこという女に、言い放たれる。

狂気を孕む、猟奇的な女が正気の愛を探求する。隼人に対する愛は、一方的な片思いだったのか... 勘違いなはずがない。仲野大賀演じる健太を通して、我々は、沙苗の愛の価値観を探る。狂気と正気の逆転現象。物語が進むに連れ、露わになる登場人物一人ひとりの愛のかたちに、我々の「愛」の概念が覆される。

山本英監督、初商業映画。初短編映画『回転(サイクリング)』のみ、鑑賞済み。他作品を見ていないことを留意した上で述べると、"現在"の人物を情緒ある物語を通して、美しく投影することに長けているものの、その人物の"過去"、如何なる人生を歩んできたのか、その衝動や行動原理となる「人物の物語」までが浮き出てこない。"過去"における彼ら彼女が「点」としてのみ描かれ、"過去"と"現在"の人物の繋がりが不明瞭で、結ばれていない。その結果、観客に委ねるいわゆる「余韻」の構築も、ピースが足りていないことから、消化不良に終わってしまっている。ただ、重厚感のある素敵な台詞が多く、心に刺さった言葉が多々あったことは留めておきたい。

橋本愛に救われた映画。『告白』からはじまり、『桐島』『渇き。』『寄生獣』『退屈』と、どことなく似ているこの類の女性を演じる橋本愛さん、中学生のときから今もなお、惹かれてしまう。

誰かを愛することで壊れていく、正気。幸せと不幸せの間で揺れ動きながらも、誰かのことを愛したい。合理だけでは通用しない「愛」の正しさをいま一度、問いただされる。あなたのそれって本当に「愛」なんでしょうか。
れおん

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