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中島みゆき 劇場版 夜会の軌跡 1989~2002のBinchoisのレビュー・感想・評価

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これで何本目かという劇場版中島みゆき。特別鑑賞料金はついに3000円台に突入。ヤマハさん強気すぎない?映画始まっていきなり瀬尾Pが登場するのは笑った。
本作は、2003年に発売されたDVD『夜会の軌跡』の映像を、劇場公開用にリマスターしたものだ。さて問題は、このDVDソフトが、真の意味で「夜会の軌跡」といえるかどうかだ。
確かに初期の方は、「言葉の実験劇場」としてスタートした夜会が、徐々に物語性を強めていく過程が分かる。しかしVOL.6「シャングリラ」以降は、それじゃなくてもよくない?という選曲が散見される。
一つだけ挙げさせてもらうと、VOL.8「問う女」から一曲選ぶとしたら「PAIN」じゃない?もちろん「あなたの言葉がわからない」も大事な曲ではあるが、元DVDと同じゴンドラの合成映像を見せられるのは、ちょっとしんどい。
夜会はあくまで舞台作品であるのだから、舞台装置がどんどん進化(過剰?)になっていく過程を見たかった。

20年前の映像をリマスターすることの労力は、相当のものだっただろう。それは理解できるが、しかし、3000円を払うだけのクオリティとはいえない。さすがにこんなギザギザの映像は、劇場公開には耐えられない。当時フィルムで撮ってくれてたらなあ…
僕は夜会のDVDを8枚持っているので、各作品の筋書きや曲はだいたい知っている。しかし初見の人からすれば、知らない曲が文脈も不明なままに流れていくだけで、「なんのこっちゃ」となるだろう。なんとなく中島みゆきが好きな程度の人は、完全に置いてけぼりにされる。

本作は2002年のVOL.12「ウィンター・ガーデン」で幕を閉じているが、2023年を生きる我々は、その後の「24時発 0時着」や「橋の下のアルカディア」での、輪廻思想の強い発露を知っている。
ゆえにこの映像集は、現在の我々にとっての「夜会の軌跡」とは言い難いのではないだろうか。端的に言うと、今頃になってあのDVDを引っ張り出してきて劇場公開することの意義が、よく分からないのだ。
恐らくこれからも劇場版中島みゆきは生産され、その度に僕も見に行くだろう。絶対固定層からの定期的な集金ではなく、コンセプトを持ってそれを訴えていくことを、みゆきファンの一人として切に願う。
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